お誕生日会・前
ご住職に耳寄りな情報を聴いた。
もうすぐ、鷹雪君の誕生日らしい。私はご住職に了解を取り、妻にその旨を伝え、彼の誕生日会を我が家で行う段取りをつけた。
目的はもちろん、斎藤君たちとの親睦である。
妻が散らし寿司を作り、麩の浮いた吸い物も用意する。私は仕事帰りに苺の生クリームケーキをホールで買ってきた。丁度、うちには沖田君、土方君、斎藤君が揃っていた。
しめしめ。
ほくそ笑む私を、三人が不気味そうな顔で見ている。
足りない椅子は寝室の物を運んできた。
「さんなんさん、一体、誰が来るんだい?」
「それは来てからのお楽しみさ」
そうは言っても察しの良い土方君のことだ。あらかた、予想は出来ているだろう。腕組して黙っている斎藤君にしてもそうだ。彼らには誕生日会という概念がぴんと来ないらしいが、まあそんなものかもしれない。
やがてチャイムの音が鳴り、妻が軽やかに駆けて行く。
「いらっしゃい!」
白い半袖のボタンダウンシャツに、黒いジーンズ姿の鷹雪君が、妻にはにこやかに挨拶した。社交辞令は心得ているらしい。純白の狩衣姿より、年相応に見える。
さて。次が問題だ。
リビングに踏み入った鷹雪君と、浅葱色の三人の間に、見えない緊張感が走ったように思えた。取り分け、斎藤君と鷹雪君の間に。土方君はどこか面白がる目で、沖田君はきょとりとした風情だ。斎藤君と鷹雪君って、前世で西瓜と天麩羅だったのかしらん。喰い合わせが悪くて今も仲が悪いとか。あ、斎藤君は前世も何も幽霊だけど。
とりあえず動かなければ食事も出来ない。私と妻に促され、四人は着座したのだった。
「誕生日おめでとう、鷹雪君」
「ありがとうございます」
「ええと、何歳になったんだい?」
「十六ですね」
「十六かあ。若いなあ。良いなあ」
「まだ青いな」
ぼそりと呟いた斎藤君の言葉に、鷹雪君の形の良い眉がぴくりと動く。
「いつまでも成仏せず、俗世にしがみついている者に言われたくはない」
「まあまあ、二人共。食べて食べて」
ああ、妻よ。ありがとう。
妻が散らし寿司をよそって差し出したお椀を、二人は素直に受け取って、揃ったように目礼した。
波乱に満ちた誕生パーティーの始まりだった。





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