囲碁勝負
その夕刻、帰ると沖田君と土方君が縁側で囲碁を打っていた。
暮色が迫るのを背景に、二人共、真剣な顔だ。だが、私が帰ったのを見て、その顔がふと緩んだ。同志を迎える顔だと感じた私は、不覚にも胸が熱くなった。
「どちらが優勢だい?」
「互角ですかねえ」
「嘘吐け、総司。俺だろう」
「土方さんは何でも自分の良いように解釈したがる」
気の置けない間柄同士だからこその会話だ。
そのうち、沖田君がぷっ、と吹き出した。
「憶えてますか、土方さん。三浦君のこと」
「三浦……?」
「ほら、僕たちの囲碁勝負の最中に、傍で見物してた大阪浪人に斬りかかってきた、」
「ああ、あいつか」
「どうも刀の腕前を軽んじられた恨みだったらしいですが」
「あれは業腹だったな。おまけに背中から斬りつけやがって。理由を問い質したら、総司の言った通りのもんだったから、お前が『本当にそうでしたね、この有り様ですから』なんぞと笑うから、奴もぽかんとしてたな」
「ええ。それから数日後の夕方、彼に『三浦君、どこかへお供したいな』と冗談を言ったら、彼、僕に暗殺されると思って真っ青になって」
「芦谷昇と脱走したんだったな」
「そうそう、」
二人してけらけら笑っている。
いや、結構、笑えないよ?
だって天才剣士に斬られるかもって考えたら、それだけで冷や汗ものじゃないか。
私は三浦君に同情した。
ん。
でも確か三浦敬之助は、短気、我が儘、乱暴、大酒飲み、と良い評判が残っていなかったな。私の沖田君研究でもその名は出てきたが、行状、芳しからず。かの有名な洋学者・佐久間象山の遺児で、仇討ちを目的として加入したは良いが、あとは前述した通りの凡そ志に相応しからぬ振る舞いをする人物だった。
それにしてもまあ。
土方君と沖田君の囲碁の最中を狙うだなんて、もっと機会を選びなよと言いたくなる。
囲碁の分が悪くなったと頼まれ、途中で土方君と代わった私は沖田君に勝った。
沖田君は唇を尖らせて、ずるいですよ土方さんと言い、土方君はにやにやと笑ったのだった。
鷹雪君の夢の件を、私は言いそびれた。





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