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密会

 ここはどこだろう。

 無明の闇だ。

 自分の手も見えない暗闇に独り。

 私は慄然として声を上げた。


「誰か。誰かいないのか」


 自分の声は聴こえる。そのことに辛うじて安堵する。

 やがて闇にぼう、と灯りが点る。少年が、牡丹柄の灯籠を提げてこちらに歩いてくる。


「……鷹雪君」


 闇に現れたのは、鷹雪君だった。純白の狩衣姿だ。夢ならではだなと、私は妙な感心をする。鷹雪君はふと微笑する。そうすると少年の怜悧な容貌に、独特の色気が加わる。


「悪かったな。邪魔のないところで、あんたと話がしたかったんだ」

「これは夢かい?」

「俺の夢と、あんたの夢を繋げた。結界に取り込んだ、と言ったが正しいか。――――その鯉口を切らないでくれよ」

「え? あ」


 私は気付くと新撰組の隊服を着て、帯刀し、刀に手を遣っていた。これではまるで、新撰組隊士のようだ。もう、私は私でしかないというのに。


「この恰好も君が?」

「いや、それはあんたの無意識下の現れだ」

「そうか。話って?」

「あんたに憑いてる者について聴きたい。まあ、あんたのそのなりを見たら、おおよその察しはつくけどさ」


 さらさらと、水の流れる音がする。今までは無音だったのに。お誂え向きに川岸に長椅子のような形状の岩がある。私と鷹雪君はそこに腰掛けた。灯籠の牡丹の柄が艶やかだ。

 私は鷹雪君に訊かれるまま、沖田君たちについて話した。自分の夢や、前生に関しても。鷹雪君は細い顎を指で軽く摘まみ、私の話に相槌を打っていた。話が沖田君の影や烏の段に及んで、彼の眉間に皺が寄る。


「性質の悪い精だな」

「せい?」

「あらゆる物、生き物が変化する可能性のある一つの姿だ。善を成す者もいれば、その逆もいる。その烏が必ずしも有害とは限らないが、事態を知りつつ悦に入っている可能性はある」

「土方君は、沖田君が転生の輪に戻るのに、君と私の力が要ると言っていた。協力してくれるかい?」


 鷹雪君はすい、と立ち上がった。白い狩衣装束なので、まるで真っ白い大きな鳥が舞い上がったように見えた。


「死霊と慣れ合う気はない」

「私とて、死霊の端くれと言えぬ身ではないのだ」


 むきになった私の口調は、自然、さんなんさんとなっていた。鷹雪君がちらりと私を見下ろす。不遜な言動が似合う少年だ。


「あんたは、別だ。既に転生を果たしたところを、過去の霊に憑かれることで、前世を思い出した。そして、えてしてそうした存在には、清らなる力が宿る。土方歳三が目をつけたのも、大方そんなところだろう」

「協力してくれ」

「……約束は出来ない。冥界に関わる事象では、情に流されるのが最も命取りだ」


 鷹雪君はそう言うと、踵を返した。

 闇の中、白い後ろ姿が遠ざかる。

 あとには川のせせらぎと、牡丹の咲く灯籠だけが残った。



いつもお読みくださりありがとうございます。

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