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涙
近藤さんの組織した甲陽鎮撫隊が動く。甲州へと。土方君は永倉君と原田君らと行動を別にした。人の輪の脆さ、幕府という、陽だまりにあった大樹の内側の腐敗による脆さよ。大樹は折れる。崩れる。懐かしい人たちが次々と死ぬ。
もう止めてくれ。
もう奪わないでくれ。
私の声は届かない。
沖田君の死は覚悟していた。
しかし土方君の死は――――。
近藤さんは新撰組の旗頭だったが、土方君は根幹、屋台骨だった。
彼の死と共に、事実上、新撰組もこの世から消滅したのである。
私は悲しくて堪らなかった。
浮遊しながら泣いていた。遣り切れない思いで胸が引き千切れんばかりだった。
そ、と肩に置かれた手に目を覚まし、顔を上げる。
「大丈夫?」
「――――うん」
私は、妻に答えて、書斎の椅子に座ったまま、彼女の腰に腕を回した。温もり。柔らかで穏やかな匂いがする。
「泣いて良いかな」
「良いわよ」
妻は私を甘やかす優しい声で答えた。
「……沖田君が好きだったんだ」
「ええ」
「近藤さんも、土方君も」
「ええ」
「斎藤君、山崎君――――――――」
それから先は言葉にならない。
「ええ、よく知っていたわ。貴方」
妻が私の髪を梳いてくれる指の感触が心地好くて、私は妻の言葉を深く考えようとはしなかった。





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