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ジョーカー

 火が燃える、火が燃える。

 新撰組隊士の命が虫けらのように散ってゆく。

 業火に潰されるように、命が一つ消え、二つ消え。


 彼らの一助となる前に、私は私を捨ててしまった。


 書斎でうたた寝をしていた私ははっと目を開けた。

 いかん、大学ノートに(よだれ)が。

 妻からの差し入れはコーヒーとガトーショコラだった。コーヒーとチョコレートってどうしてこんなによく合うんだろう。きっと前世で恋人同士だったんだ。そんなしょうもないことを考える。

 そう言えば妻は紗々女ではないのだった。

 その事実が、私の気持ちを些か重くしていた。

 前世が誰であれ、妻は妻。愛妻に代わりはないのだが。


「夜の考え事は止めたが良いぜ」


 背後からの声にびっくりして振り返ると、土方君が腕を組んで立っている。いきなりいるの、止めてくれないかな。心臓に悪いから。


「どうしてだい?」

「気が滅入って、良策も浮かばねえからな」

「成程」

「それよりあんた、最近、術者に会ったか?」

「術者?」

「ああ。呪術の匂いが微かにする」


 はて。

 そんな大層な人に会っただろうか。


「――――ああ、陰陽師の末裔には会ったよ」

「それだな。気をつけろ」

「うーん? うん」


 鷹雪君がそんな危険人物とも思えないのだが。

 物憂い口調で、土方君が続ける。


「術の使える奴には、問答無用で俺たちを消そうとするのもいるからな」

「まさか」


 私は一笑に付したが、鷹雪君の怜悧と繊細がない交ぜになった印象を思い出す。


 ……彼は私たちにとってのジョーカーとなり得るのだろうか。


「あ!」

「何だ」

「斎藤君はまた来るかな?」

「来るんじゃないか」

「良かった」

「どうして」

「だってまだ、握手してもらってないから」


 土方君が私に、非常に白けた目を向けた。しょうがないじゃないか。

 有名人に会ったら、握手にサイン、これは鉄板である。そうだ、色紙も用意しておこう。




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