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斎藤君

 囲碁でご住職に完敗を喫して、私はとぼとぼ家に戻った。

 妻はパウンドケーキを焼いていて、縁側には浅葱色の羽織が三つ。


 うん?

 三つ?


 三人が一斉に振り返る。

 沖田君、土方君。それから――――。


「斎藤君じゃないか」


 新撰組においては沖田君と双璧と称された剣腕の持ち主だ。苦味のある整った容貌は、ともすれば陰鬱ともなりがちだが、沖田君や土方君とはまた違う魅力がある。気がする。男の私にはいまいちぴんと来ないけど。

 斎藤君は姿勢を正して、私に頭を下げた。


「お久し振りです。ご無沙汰いたしております」

「うん。元気だったかい?」


 幽霊にこう訊くのもおかしな話だが。

 だが斎藤君は生真面目に頷いた。


「はい。お蔭様で」


 だが、斎藤君がここにいるということは、彼もまた、輪廻の輪からまだ外れていることになる。大丈夫なんだろうか。


「あれ。君の墓所は会津じゃなかったかい?」

「はい」

「うちは遠いだろう」

「幽霊ですから」


 距離は関係ないということか。ふーん。

 斎藤君は言わば新撰組の生き残り組だ。警官になって西南戦争で戦ったりしている。

 しかしこの面子、芽依子がいたら煩いだろうなあ。


 そう思っていたら来てしまった。来てしまったよ……。


「叔父さーん、おっきーいる?」


 ああ、面倒臭いなあ。

 案の定、芽依子は土方君と斎藤君に黄色い悲鳴を上げ、妻が焼いたケーキをちゃんと食べつつ、写メを撮りまくっていた。


「叔父さんちって新撰組のコスプレイヤーの集合場所?」


 事実に反するがどう訂正したものか悩む。


 どうして斎藤君までもが我が家に来るのか。その理由は私が土方君から聴いた話に起因するのだが、その時の私は失念していた。


 やがて鷹雪君が、彼らと関わり合いになることも、私はまだ知る由もなかった。




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