待ったなし
時期外れの鶯の声。
もう時は夏だと言うのに。
何だか取り残されたようで哀れである。独り囀るのは寂しいだろう。鳥でも、人でも。
私は妻の使いで我が家の菩提寺に、冬瓜を届けに来ていた。妻の親戚が育てた物を、毎年たくさん送ってくれるのだ。竹林の中にある菩提寺は、どこか浮世離れしている。竹の歌を私の耳が心地好く感じている。そして稀に、鶯の声。
茣蓙の敷き詰められた一室。開け放たれた戸から青い風が吹き込む部屋で、私はご住職と碁を打っていた。こん、こん、と響く碁石の音。
「あ、待った」
「待ったなしじゃ」
「そこを何とか」
食い下がる。ご住職は丸い赤ら顔で、楽しそうに笑っている。
「そう言えば親戚の子を預かりましてな」
「ほう」
「鷹雪。鷹雪。ちょっと来なさい」
ご住職が大きな声で呼ばわると、華奢な少年の姿が現れた。怜悧な印象と壊れそうに繊細な印象の両方を受ける。長めの前髪の間から、こちらを見る視線が鋭い。
「ご挨拶しなさい。こちらは、」
「あんた、妙なのに憑かれてるな」
ご住職の言葉を遮って、たかゆき君とやらが私に直截に言った。思い当たるところが多過ぎて、私は言葉を失う。たかゆき君は全てを見通すような目で、私を見据えている。
「こら、失礼じゃろう」
「そうか。あんた自身も……」
私は年下の少年相手にどぎまぎしてしまった。言うだけ言うと、たかゆき君はふいと身を翻して行ってしまった。
「すみませんなあ。少し難しい子で」
「いえいえ」
「安倍鷹雪と言いましてな。祖先は陰陽師なのですよ」
鳥の鷹に降る雪の雪と書くらしい。風流な名前だ。
陰陽師かあ。成程なあ。お母さんは妖狐かしらん。なんちゃって。
「ところでご住職……、」
「待ったはなしじゃ」





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