人違い
暑いなあ。そろそろ夏かな。
エアコンの掃除とかしなくちゃな。
そう思っていたらいきなり冷える日とかあるし。お天道様のご機嫌は読めない。
歩道脇にしぼんだ露草を見掛ける。朝方には綺麗に咲いていた。これは露草の性質なのだ。犬の散歩をさせている人と会釈しながらすれ違う。パグは愛嬌ある顔で、盛んに尻尾を振っていた。可愛い。
帰宅して一息吐くと、沖田君と土方君が縁側に並んでいて、私はそれだけで心和むものがあった。妻は例によって夕飯の支度だ。多分、気を利かせてもいるのだろう。沖田君と土方君が同時に私を見る。沖田君は笑顔で「お帰りなさい」と言って、土方君は軽く会釈する程度だ。性格が現れる。
二人の手には桜茶。桜の塩漬けが浮かんだお湯である。時期外れの小さな花見と言ったところだろうか。妻が私の分も持ってきてくれる。ぼうと浮いた花びら。時にそぐわない花は新撰組にも似ているかもしれない。脇に置かれた盆にはワッフルが載った皿。
「済まなかった」
ぽつりと、土方君が湯に咲く桜に目を据えたまま、ぽつりと言った。彼に謝られるのは二度目だ。
「良いのです」
色白な優男の顔立ちが、憂いを帯びている。
「もう、良いんですよ。土方君」
烏が桜の枝に留まっている。心なし、こちらを観察する風情だ。
「紗々女のこと、ありがとう」
「――――俺は大したことしちゃいねえ」
「いいえ。今生で妻と、紗々女と巡り合えて良かった」
沖田君と土方君が目を丸くする。私は食べかけていたワッフルを持つ手を止めた。
「え?」
「え?」
沖田君が上げた声に、私も問い返すように声を上げる。
「ご亭主。……奥方は紗々女さんではありませんよ」





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