生きていて
土方君は斜に構えた視線で沖田君をぎろりと睨んだ。
「引っ込んでろ、総司」
「いいえ。彼はさんなんさんであって、さんなんさんでない。土方さん。貴方もまた、そうであるように」
しんしんと冷えた廊下で、沖田君と土方君が睨み合っている。
「もう一度、やり直すんだ。さんなんさんを死なせねえ。新撰組に賊軍の汚名も着せねえ」
「終わった祭りです、土方さん」
「祭りだと?」
俄かに土方君が気色ばむが、沖田君は少しも怯まず続ける。
「はい。僕たちは命懸けで祭りに加わり、そして散ったのです。それをもう一度とは、貴方らしくもない駄々です」
話がまるで見えない。
沖田君と土方君は、さながら先の世を知っているような口振りだ。そしてその先の世で、新撰組が辿る悲劇を。――――いや?私もまた、知っていた気がする。これは二度目であると。一度来た道を辿るように、歩んでいる。土方君は、この先の道を変えようと考えているのだろうか。
「土方君は、私が死ぬと思っているのかね」
ふと口を突いて出たのは、自分でも予期せぬ言葉だった。
常には沈着の土方君が、かっと激昂した。
「あんたは死んだっ! 志半ばで憤死した。俺の手落ちだ! 二度目はねえ。総長の肩書にも、名に相応しい意義を与える。だから……」
だからもう、死んでくれるなと。
鬼の副長が小さく呟いた。私は自らの愚行を省みた。沖田君も土方君も、近藤さんも、私の死に大きく揺らいだのだ。土方君などは悪役のように言われたかもしれない。途方に暮れているのは、私だろうか、彼だろうか。沖田君は痛ましい表情で、肩を落とした土方君を見ている。そして振り切るように視線を私に移した。
「奥方がお待ちです、ご亭主。良いですね、土方さん」
「…………」
私は土方君に対して詮無い気持ちになった。そしてどうせなら、紗々女ともっと語らえば良かったと思った。私はいつも、一歩遅いのだ。
あたりが暗闇に包まれた。
一点、射す光が眩い。
私は目を細めて、反射的に手をかざした。ここは寝室だ。妻の涙顔がすぐ上にある。
「貴方、」
「……今は、元治か?」
「え?」
「いや、何でもない」
「書斎で倒れたまま、叩いても揺すっても起きないから心配したわ。来てもらったお医者様はただ寝ているだけだって仰るし」
「どのくらい寝てた?」
「二日よ」
その言葉に呼応するかのように、ぐ、ぐう~~~と腹の虫が鳴る。
「……お腹空いた」
「ちょっと待ってて」
妻が慌ただしく寝室を出て行く。目の下に隈が出来ていた。私がぐーすか寝ている間、余程、心配したのだろう。罪悪感で心臓がちくちくする。やがて運ばれてきたチョコレートパフェを、私は点になった目で凝視した。
「……何でチョコレートパフェ?」
「だって貴方の大好物でしょう?」
いや、妻よ。二日間、何も摂らなかった人間に対して、些かパンチが強過ぎはしないだろうか。それでも私はチョコレートパフェを食べた。新撰組が正義なら甘いものも正義である。
「沖田君と、土方君は?」
「そう言えば貴方が眠ってから、見てないわ」
「そうか」
ああ、パフェが美味しい。
生きてて良かった。





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