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帰りましょう

 雪が降っている。

 ひらひらと、白いひとひらが舞い降りる。

 京の町に薄い雪化粧を施す。

 こんこん、と軽い咳が出る。


「寒おすか?」


 紗々女が心配そうに尋ねてくるのに、私は微笑して首を横に振った。

 身体の不調が、思わず長く続いている。これで新撰組の飛躍の舞台にまた上がれなかった日には、私は私を許せないだろう。

 紗々女が火鉢を近づけてくれる。どこへ行くのかと土方君に訊かれた。正直に島原だと答えると、合点が行ったように頷いた。不逞浪士に気を付けるようにと言って。彼が何くれとなく甲斐甲斐しい理由が解らない。

 私が内心、抱く忸怩(じくじ)たる思いを察知しているのだろうか。思うように動かない身体。物の役に立てない我が身の情けなさ。唇をきつく噛むと、赤い血がつうと落ちた。紗々女が目を瞠り、懐紙でそっと拭いてくれる。今頃、外は紺青に白い点が散っているだろう。外にいる人々が、白い息を吐いているだろう。あらゆる思惑が、蠢いているのだろう。こうしている今も。


 紗々女が部屋から出て、私一人になると、私は脇差を抜いて白刃を見つめた。いっそこのまま、腹を掻っ切れたなら。もちろん実行には移さない。店に迷惑が掛かるし、何より紗々女を置いて逝くことに強い躊躇を感じる。


 屯所に戻った私を、待ち構えていた人物がいた。

 曙光が処女雪を染める頃。

 いつから待っていたのだろう。


「駄目じゃないか、沖田君。部屋で寝ていなければ」


 京の底冷えが、ましてや雪が、病身である彼に障らない筈はなかった。しかも彼は、巡察でもないのに隊服の羽織を着ている。


「大丈夫です。僕はもう、生きていませんから」

「何を縁起でもないことを言っているんだ」


 沖田君は、物を知らぬ童を見る目で私を見た。


「もう良いんです、ご亭主。帰りましょう」


 私の部屋の前で問答する私たちの他、もう一人、そこに立っていた人物がいる。

 沖田君は彼を振り返った。


「気が済んだでしょう、土方さん」




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