靄の中
年号が元治と変わった(1864年)。
私はここのところ、身体が不調であり、剣の稽古もままならないでいた。
島原にふらりと出掛け、紗々女だけに出入りを許し、あとは一人にしてもらう。
白粉の匂い、煙管の匂い、女たちが纏う香の匂いなどが入り混じり、私を放心させる。
無になりたくて、私はここに来る。
芸妓を勧められることもあったが、笑って固辞した。
己の寂寞とした胸の内を扱い兼ねて、私は目を瞑り、赤い褥に横になった。
そこでもやはり花のような香りがして、どうあっても逃れられないのだなと観念した心地になる。
三味線の音、謡の声が聴こえる。
沖田君が労咳らしい、と知ったのは、つい先日、行きつけの刀屋での会話がきっかけだった。医者に向かう沖田君を見たと言う。池田屋の件以来、彼の体調が芳しくないことは知っていたが、よりによって労咳とは。
アイシングクッキーでも食べさせてやりたい。
妻の作る手料理ならば、さぞ精もつくだろう。
そこに至り、今、何を考えていたか、魚が手の内からつるりと逃げるように忘れる。
土方君が何かにつけて、私の動向を見張っているようなのが気になる。監視と言うより、見守る、に近い。鬼の副長がどうしたことだろう。そう言えば、彼は以前、私をむざとは死なせないと言っていた。あれはどういう意味だったのか。
――――歴史の改変は罪であると言うのに。
また、意識が飛んだ。
紗々女が失礼しますと言って、お茶を持ってきてくれた。
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