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野試合

 内憂外患。

 当世、黒船襲来などによって世情は騒然とし、多摩の村々でも浪人や博徒が横行している。自然、自衛の気風が培われ、多摩郡では地域ごとに数十もの村が団結する組合村が組織された。

 武装して剣術を学ぶ必要を、武士以外の身分でも感じたのだ。

 

 近藤周助先生の元にも、日野宿寄場名主の佐藤彦五郎俊正、小野路村寄場名主の小島鹿之助為政、連光寺村名主の富沢忠右衛門政恕を始め、小野路村名主の橋本家、常久村名主の関田家などが有力な門人として集った。


 天然理心流はかくして、名主からその支配下層に至るまで、布が水を吸うように浸透したのである。


 文久元(1861)年八月二十七日。


 近藤(勇)さんの天然理心流四代目襲名披露の為、野試合が行われることとなった。

 盛夏の候である。

 私は着物の襟元を寛げながら、六所宮の本殿は(きざはし)に座っていた。

 少し離れたところから、土方君が私にどこか含む視線を投げて寄越した。彼は私と同じ赤軍だ。視線の意味をくみ取れず、怪訝な顔をした私から、土方君はふいと顔を背けて行ってしまった。


「土方さんは、まるで恋する娘さんだなあ」

「沖田君」


 くすくす笑いながら、常のように朗らかに言った沖田君に、私は安堵の笑みを浮かべる。血色が良く、健康そうだ。それを良かったと思うと同時に、そんな自分に違和を覚える。なぜだろう。

 野試合とは集合撃剣である。

 形式は実戦のそれと同じで、紅白に分かれ、防具の上に乗せた土器が割られると、即ち討死と見なされる。

 私は既に防具の上に土器を乗せている。

 蝉の声が賑々しい。我々を鼓舞しているのか、笑っているのか。

 なぜか懐かしいと感じる。

 初めて迎える今日であるのに、奇妙なことだ。

 土器の色は、紅組は薄い朱で、白組は白のままだ。私は薄い朱を眺めて、これより濃い紅が、いずれは我々を包み、押し流し、凌駕せんばかりになるのだと思う。それもまた奇異の念である。筋の通らない考え事をしてしまうのは、暑さのせいだろうか。


 間もなく試合が始まる。


 知りもしない女の声が、「貴方」と呼ぶ声が聴こえた気がした。

 


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