ギャップ萌え
私の中に、私の知らない私がいる。
初めは違和感があったものが、今では混然一体となり、どちらが本当の私とも言えない。
なぜ、と思う疑問が多々、湧く中で、妙に合点が行く私がいて、この状況を受け容れているのだ。
ビールが美味い。
その晩は八宝菜と中華風牛肉とわかめのスープだった。
八宝菜の中の鶉の卵は、一人二つずつと決まっている。この勘定には沖田君も入っている。筍、人参、きくらげ、とろみのある汁に歯応えの楽しい具材が入っている。妻の勘気は解けたらしい。私は内心で息を吐いていた。
沖田君はひょいぱくひょいぱくと八宝菜を食べている。
気に入ったようだ。
……白い髭がまた出来てるけど。
何と言うか、沖田君のこういう面って、女性の母性本能をくすぐるんじゃないだろうか。剣豪と言うには懐っこく、朗らかで。
ギャップ萌えである。
私は萌えないけど。
夜、書斎に籠り、私は相変わらず沖田君研究を続けていた。
沖田君が新撰組の中で助勤筆頭だったが、それを快く思わない人間も少なからずいただろう。近藤さんの身内だから贔屓されているのだと、そう、陰口を利く輩もいた。私の姿を見ると皆、一様に口を噤んだが。
私は目を閉じて意識が揺蕩うに任せた。
人が集まれば様々な思惑が入り乱れる。どんな人格者であれ、反感を買わないということはないのだ。温厚で知られる井上さんでさえそうだったろう。記憶の混沌で、私を呼ぶ声がする。
〝さんなんさん〟
「さんなんさん」
聴こえた肉声に私はぎょっとして、目を開けた。
いつの間にか室内に、土方君が立っている。
「うわあ、びっくりしたあ!」
土方君は凪いだ表情で素っ頓狂な声を上げた私を見ている。
これ、怪奇現象そのものだよな。
「さんなんさん、帰ろう」
「帰る? どこへ」
「俺たちが生きた時代に」
「え?」
「新撰組を、もう一度やり直そう」
私は土方君の言葉をゆっくりと咀嚼した。
ああ、君はまだ、諦めていないのか――――――――。
未だに熱と狂乱の渦の中にいるのか。
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