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陽光

 私は書斎で朝を迎えた。目を開ければ床に突っ伏していた。身体に掛けてある毛布で、妻が来たことを悟る。

 書斎の床はフローリングで、私は固くなったように思う身体をぎしぎしと起こした。窓のカーテン越しに朝の光が室内を淡く白く染めている。妻の心中を思うと、私の胸までが痛み、遣る瀬無い思いが湧く。手ひどく傷つけてしまった。よりにもよって、妻が最も嘆き悲しんでいる点を、私は突いたのだ。

 当然のことながら朝食は用意されていない。

 妻は私と顔を合わせまいと、洗濯中のようだ。洗濯機の回る音が聴こえる。

 結局、私は空きっ腹を抱えて出勤途中にコンビニに寄り、サンドウィッチとお握りを買って仕事に向かった。

 もう初夏とも言える朝の光は容赦ないくらいで、私は手をかざして庇を作った。


 遍く日の光が照らし出せば、逃れられない真実を直視することにもなる。亡き子のことや、妻の悲嘆には、もっと柔らかで温順な光が似合う。太陽は時に痛めつけてしまうのだ。弱い常人を。


 仕事中、私の脳裏には妻の顔が浮かんでは消えていた。給料泥棒と言って良いだろう。まるで脱け殻のように使い物にならない私を、見兼ねたのか上司が早退を勧めてくれた。仕事の鬼と言われる人なのに。そんなに無残な有り様に見えるのだろうか。腫れた頬も一因だったかもしれない。


 まだ日が高い内、道すがら、洋菓子店に寄り、妻の好きそうなケーキを幾つか見繕った。フランボワーズ(いつも舌を噛みそうになる)の乗ったやつは外せないな。それから、セレクトショップで、妻が欲しがっていたシルクのスカーフを購入する。サーモンピンクが、妻にはよく映えるだろう。


 ただいま、と恐る恐る家の中に入る。

 スリッパの音がして、妻が驚いた顔で私を見た。


「――――早いのね」

「うん。鬼の目にも涙があったらしい。これ」


 そう言って私は、戦利品、もとい献上品を妻に差し出した。

 妻はそれを受け取り凝視して、長いこと沈黙すると、くしゃりと顔を歪めた。

 泣く妻を、私は抱き締めた。

 済まなかったと、何度も何度も繰り返して言った。




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