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本当の総司

 さて本日の夕飯は、山菜ご飯に手羽先を焼いたもの、白和えと(しじみ)の味噌汁だった。

 鬼の副長と沖田君と私と妻。

 一風変わった顔合わせで食卓を囲む。鬼の副長は、妻には愛想が良かった。彼が妻を見る目に、なぜか感慨を見た気がして、私は不思議に思った。

 まさか新撰組の二大スターと酌み交わす日が来るとはなあ。

 土方君は冷や酒を美味そうに飲んでいる。土方君も飲み食い出来るのか。つまりは食いしん坊さんだと考えて良いのだろうか。意外な一面だ。


 食後、やはり縁側で、土方君と並んで私は夜空を見上げていた。

 ずっと昔もこんなことがあったような、妙な気持ちだ。沖田君は妻により、皿洗いに動員されている。彼が同席しないのはそればかりが原因ではなく、私と土方君を二人にしようという配慮が窺える。なぜだろう、と思う私と、得心する私がいる。


「済まなかったな」


 唐突な土方君の謝罪に、しかし私は動じなかった。

 ああ、彼も悔やんでいたのだ。苦しんだのだ。


「何を謝るのですか」

「あんたを追い詰める積りはなかった」

「知っています」

「……喪う積りも」

「はい」


 今にして思えば、私も浅慮だったのかもしれない。一人で苦しみを持て余し、のた打ち回っていた。


「長く患う身が歯痒く、私の視野も狭くなっていたのでしょう」

「結果、蔑ろにしちまった」

「過ぎたことです」


 土方君は凡そ何でもそつなくこなしてみせたが、俳諧のほうはからっきしだった。そんな風に、彼にも人間らしく好ましい一面はあったのだ。静かに更けゆく夜、土方君とこうした時間を持てたことを幸いに思う。


「俺が来たのは、あんたと話す為でもあるし、総司が心配だったからでもある」

「沖田君が?」


 沖田総司は愚かだったと言った沖田君を思い出す。

 あれは沖田総司ではないと言った烏のことも。


「俺は望んで輪廻の輪から外れているが、あいつは違う。入りたくても入れずにいる」

「なぜ」


 土方君が腕組をして下を向く。厄介ごとを考える時の、彼の癖だ。


「あいつは紛れもなく天才だった。その腕に俺たちは頼り切った。……人を斬る度、あいつの心が闇に沈んでいくことにも気づかず。今更、言っても始まらねえことだが、総司を輪廻の輪に戻してやりたい」


 土方君も私も、沖田君を弟のように思っていた。彼の苦悩を、私であれば理解出来ると土方君は考えたのだろう。


「土方君。彼は、沖田君でしょうか」


 私は慎重に問い掛けた。土方君に首肯して欲しかった。

 土方君はしばらく瞑目した。そして目を開け、私を見る。


「あれは、はりぼてだ。本当の総司は別にいる」



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