土方君がやってきた
家に帰ると、妻は既に夕飯作りを始めていた。
縁側には浅葱色の隊服が二つ。
はて?
二人の男性が同時に振り返る。沖田君がにこやかに言う。
「お帰りなさい」
もう一人は、無言で私を凝視している。私も彼を凝視した。
見つめ合うこと数秒。沖田君が吹き出す。
「お二人共、お見合いじゃあないんだから」
烏の鳴き声が聴こえる。まだ日は明るいが、暮れる準備をしている。
空をうっすら紫色が染める。
色白で、優しげに整った顔立ちの彼は、眼光だけがやたら鋭い。多弁なほうではなかった。しかし重要なことになると饒舌になった。
待ち切れないように沖田君が紹介する。
「土方さんです」
「……どうも」
眼光鋭いままに会釈され、私も会釈を返す。
え、待って。土方?
「土方歳三。さん?」
「そうだ」
私は思わず最敬礼しそうになった。
鬼の副長じゃないか!
五稜郭で戦死した時は洋装だった筈だが、今は沖田君と同じ、だんだら染めの隊服だ。髪だけは総髪で、当時の先端を感じさせる。
何だか感無量だなあ。
彼の仏頂面を、私は懐かしく見つめた。
「北海道から来たんですか?」
「いや、石田寺から」
土方歳三の数ある墓所の一つがある寺だ。東京都内だから、北海道から飛んで来るよりは近いだろう。
「土方さん」
私がそう呼び掛けると、彼は居心地悪そうな顔をした。
「土方君で良い。あんたは」
おお。何だかスターに特別扱いされている気分だ。
「じゃあ、土方君」
「何だ」
「握手してください」
土方君が、思い切り奇妙な目で私を見た。





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