羊じゃなくて執事
ぶくぶくぶく~と湯に沈む。
何か最近、疲れている。仕事はそんなに立て込んでいないんだけど。
今日は雨降り。急に冷えて、妻が寒い寒いと言って五本指ソックスを出していた。
読めない天気模様である。私はのんびり湯に浸かって、出所の解らない疲れを洗い流した。頭が重いんだよね。何なんだろ、これ。
夕食より先に風呂を済ませてリビングに行くと、芽依子が来ていた。試験から解放されて時間と暇があるらしい。学生さんは良いね。
「羊になりたくはありません」
「羊じゃなくて執事だってば」
沖田君と何やら問答している。芽依子の手には――――。
事態を呑み込んだ私は、思わず溜息を吐いた。
芽依子の手には執事服一式が抱えられていたのである。どこから調達してきた。
女装で味をしめたのだろう。妻もまた、芽依子ほどではないものの、期待の表情で沖田君を見つめている。
女性のこういうところって、解らない。
コスプレってそんなに良いもんなんだろうか。
やいやい言い合っていた二人だが、ついに沖田君が折れた。
何だか可哀そうだ。
そして私は再び、彼を着替えさせる係りを仰せつかった。
着替え終えた沖田君。
……何かこういうアニメがなかったっけ。
濃い紫のネクタイ、銀色にアメジストっぽい石が光るネクタイピン。ベストに、極細のストライプが入った上着。
そこに沖田君の眩しい顔立ちが乗っかれば、女性陣には破壊力抜群だろう。
「きゃあああああ」
「いやあああああ」
あれ、デジャブ……。
妻と芽依子、執事と化した沖田君の撮影に夢中である。
「……ねえ、晩ご飯は?」
「ちょっと待って! 今が天下分け目、関ケ原なのっ」
意味が解らないよ。
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