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さくらんぼうゼリー

 今日は初夏の陽気だ。一昨日なんかは肌寒かったのに。最近の気候変動振りには戸惑うばかりである。私はスーツの上着を左腕に下げ、だらだらと歩いていた。汗ばんだ肌に風呂が恋しい。私は夏でもシャワーより湯船派である。咽喉が渇いたなあ。日没までまだ間があり、涼しい日陰が乏しい。家に帰るまでの我慢だ。こりゃ新撰組の隊服を着るのも、相当、難だぞ。暑い中でやっとうをやるなんて、現代人の私から見れば狂気の沙汰である。かと言って、では寒い中なら良いかと言えば、手がかじかむじゃないか、と思う。出来れば爽やかな風の吹く適温な日に、事を構えるのがベスト、などと思う時点で、既に私は士道不覚悟なんだろう。沖田君はともかく、とりわけ稽古熱心で汗を流していたという鬼の土方副長などが聴けば、にょきにょきと頭から角を生やすに違いない。だが彼は、ああ見えて存外、気配りのある、情の深い面もあった。



 家に帰れば風鈴の音色に出迎えられた。早い気もするが風流である。

 妻と沖田君が縁側で並んで、さくらんぼうの入ったゼリーを食べている。

 ずるい。

 私にも、と言うと、はいはい、と妻が立ち上がる。沖田君の隣ポジションの交代である。

 私が妻のほうを向いている時だった。

 ふ、と影が射したように思った。ぴり、とした殺気を感じた。


 ああ、この感覚を私は知っている。

 

 私は頭を介さず、身体を動かした。

 沖田君の右腕を捉え、くるりと力の反動を利用して押さえ込む。彼の、身動き出来ない角度に手首を固定して。


 妻が驚いた顔で私たちを見ている。


「お見事!」


 対して、沖田君は押さえ込まれながら嬉しそうだった。事態を呑み込んだ私は驚くばかりだ。彼は、鞘に入れたままの刀を私に振りかざしたのだ。そして、その気配を察した私が、その攻めを封じた。


 いや、待て待て。私にそんな芸当なんざ出来る筈がない。どうなっているのだ。


「昔も柔術がお得意でしたね」


 私から解放された沖田君がにこやかに言う。いつの話?

 私はぷるん、としたゼリーを小匙で突いて、首をひねった。




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