ポテトチップス
ようやく仕事も落ち着いてきた。
時折、汗ばむような陽気となる日もあって、季節の移り変わりを感じる。
帰路、烏が石塀に留まって私を見ていた。
目が合う。
まるで私を待っていたかのようだ。
「封が一つ解けたな」
やはり例の喋る烏だった。意味不明のことを言う。
「積年の、願いは叶うぞ」
そう言われてどきりとする。
積年の願い。思い出す、妻の嘆き。今では考えられない、陰鬱な空気が我が家を覆っていた頃。
「だがその時には、沖田総司は消えるだろう」
「――――何?」
「あちらもこちらも、両方は得られない」
「どういうことだ」
問い質すが、烏は言うだけ言って飛び去って行ってしまった。
積年の願いが叶う。
沖田君が消える。沖田君が……。
家ではいつものように、妻と沖田君が縁側で談笑していた。沖田君の姿を見てほっとする。いつか昔、似たような危惧を感じたように思う。沖田君がいなくなるような。私はその時、この朗らかな青年を喪うのは嫌だと、そう感じたのだ。強く。
妻が夕飯の準備に向かい、私は沖田君の隣に腰を下ろす。すっかりこのパターンが出来上がってしまった。本日のおやつはポテトチップス。飲み物は牛乳だ。たまにはこんなのも良い。ポテトチップスはサワークリームとオニオンの風味が効いて、あとを引く。
いかん。ご飯が入らなくなる。
「沖田君」
ぱりぱりむしゃむしゃ。
「はい」
「君はいなくなったりしないよね?」
沖田君の目が真ん丸くなる。
ぱりぱり。
「目下、成仏の予定はありませんが……」
うん。安心して良いのか、心配するところか。
「いつまでもこのままでいたいものです」
「いれば良い」
沖田君は笑った。それはひどく純度の高い笑顔で、私はなぜか、胸が苦しくなったのだ。
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