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紫陽花

 沖田君の容態が芳しくない。労咳特有の、透き通るような顔の白さは元来の彼の白皙をより一層、際立たせる。医者にはあと二年と言われたらしい。新撰組を離れ、養生すればまた別の話らしいが、沖田君はそんな状況に甘んじないだろう。屯所の庭に咲く紫陽花が雨に打たれてより色香を増している。沖田君もまた、同じ花を見ているだろうか。余りしつこく見舞ってはと思い、遠慮しているが、彼が気に掛かるのは仕方のないことだ。目を瞑ると祇園祭の賑やかな囃子の音色が蘇る。池田屋の件があった夜。京は祭りの熱気に浮かれざわめき、常ならぬ状態だった。それゆえに、新撰組も隠密裏に動くことが出来た。

 近藤さんの養子となった周平は、池田屋で醜態を晒したと聴く。それを、彼の元・義父である谷三十郎が沖田君のせいにしているとか。気の重い話である。

 沖田君は周平君に良かれと思いこそすれ、画策して陥れようなどとは露程も思うまいに。

 谷の主張を容れるような近藤さんではあるまいが、私は正直、不快だった。

 そもそも、周平君は近藤さんの跡を継げる器ではない。使い手としても凡庸である。

 土方君などは最初から相手にしていない。

 ――――私もまた、土方君の眼中にないのだろう。

 紫陽花の色がやけに目に沁みる。




 緑茶を飲みながら、私は雨の音を聴いていた。

 書斎の本棚には新撰組関連の本が増殖しつつある。池田屋事変の際、新撰組の屯所はまだ西本願寺ではなかった。隊士の増加により、西本願寺に移ったとされるが、西本願寺は長州とも繋がりがあったらしい。中々、複雑である。大砲や射撃の演習を行ったそうだが、寺としては迷惑だっただろう。それでも、新撰組を受け容れるあたり、池田屋事変を経た後の新撰組の威容の高まりが窺い知れる。

 今夜の妻からの差し入れはチョコチップクッキー。

 さくさくした生地の歯応えの中、ごろりとチョコの塊が入って口に入ると甘さが溶ける。

 相変わらずの高カロリーチョイス。

 良いんだ、ダイエットは明日からするから。


 ふと書斎の窓の外を見る。

 黒を遮る白銀の糸。

 紫陽花はなかっただろうか。

 なぜかそう思う私がいる。



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