塩豆大福
「京都はいかがでしたか」
妻が場所を譲ってくれた沖田君の隣に、私はいる。沖田君のにこやかな問いかけに、私は塩豆大福をもにょーんと伸ばして食べながら、答える。
「うん。楽しかったよ。池田屋にも行ってきた」
「池田屋……」
「そうそう。今も居酒屋やっていてねえ。見て、これ」
じゃん、とばかりに私が取り出したのは、沖田君のアニメ風イラストが描かれたコースターだった。ちゃんと沖田総司と書いてある。これが意外に沖田君のイケメン振りと重なる点があるから面白い。沖田君はきょとんとしている。自分が商業活動に一役買っているなどとは思っていないのだろう。
「いやあ、知ってはいたけど、沖田君は人気があるねえ」
「はあ」
「留守中は変わりなかったかい」
幽霊である彼にこう尋ねるのも可笑しな気がするが。
「六本木ヒルズを散歩したりしてました」
以前、賑やか過ぎるとか言ってなかったっけ。寂しかったのかな。
「そうかあ」
塩豆大福を発明した人は偉い。甘さと塩の絶妙なハーモニー。
漉し餡だが、まあそれも良い。この場合は適している、という感じがする。
「君と剣術稽古くんだりしたことを思い出したよ」
「そうですか」
「うん。あの頃はまだ、自分が京に上ることになるだなんて考えもしなかった」
「僕もです」
あれ。
私は今、何を言ったのだろう。何かを言って、それに違和感なく答える沖田君がいた。驚きもせず、長年の知己であるかのように。
沖田君を見ると伏し目がちに緑茶の水面を見ている。睫毛が長いなあ。
当時もそんなことを思ったような。
いや待て待て。当時っていつだ。
どうにも座り心地の悪い椅子に収まっているような心境で、首を傾げる私を、緑茶から視線を移動させた沖田君が見ている。色の薄い瞳は、子供を見守る母親のような趣があった。
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