スローモーション
翌日は東山区の石塀小路を散策したあと、幕末維新ミュージアム・霊山歴史館に行った。
丁度、大河ドラマで西郷隆盛が主役を張っている関係で、西郷に関する事物が多く紹介されていた。
維新志士、新撰組隊士の史料も展示されていた。
天然理心流で使用されていた木刀と、通常の木刀も展示されていて、見た目の太さが明らかに異なり、持ってみると前者のほうがずしりと重い。
実践仕様での作りとあるが、これで素振りや稽古をしていたのかと思うと、しがないオフィスワーカーの私には驚嘆するものがある。
お土産には竜馬の拳銃や刀を模したキーホルダーが売られており人気なのだなあとつくづく思う。
何だか懐かしいなあと思うのはなぜだろうか。
柄にもなく郷愁に浸っている私がいる。沖田君でもあるまいに。
あの木刀の重さが、手にしっくりと馴染み、まるでその昔、自分が振るっていたような錯覚さえ感じる。そんな筈もないのに。
妻はお土産物屋さんで竜馬の拳銃を模したキーホルダーを買っていた。
え? 新撰組の彼にそのチョイス?
別に良いけど……。
きぃん、と私の中で耳鳴りがした。
次いで目眩がする。何なんだ、これは。
思い出さないほうが良いですよ。
ふと水面に浮かぶ泡のように沖田君の声が浮かぶ。
あれはいつのことだったか。
泣き出す前のような笑顔で彼は繰り返した。
私の身体がぐらりと傾ぐ。
妻が驚きの表情で私を見ている。世界がスローモーションに流れて行く。
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