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池田屋
その晩は池田屋で食事した。
そう、あの池田屋である。現在は池田屋事変を売りに和風居酒屋として売り出している。
妻がネットで調べてきた店は、新撰組を意識した内装だった。
メニューも、食べ物から飲み物から新撰組の人気隊士たちの名前を冠した文字列が並び、私は目をしぱしぱする。沖田君が来ても同じように目をしぱしぱするのではあるまいか。
鍋をつつきカクテルを飲みながら、私は落ち着かない気分だった。
「どうしたの、貴方?」
「うん。初めて来たなあと思って」
「それはそうでしょ」
「前は来なかったんだ」
「知ってるわよ」
そうだ。前は来なかった。いや、来ることが出来なかった。
私はそれが口惜しかったのだ――――。
そこまで考えて正気に戻る。
何の話だ?
私は池田屋が今も商売しているなど、知らなかった。
だから以前、京都を訪れた時も来たいなどとは思わなかった筈だ。
ましてや来られなくて口惜しいなどということは。
何なのだろう、この違和感は。
池田屋さんは現在も営業中です。





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