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火を見る
ちょっと火を見ていて頂戴、と言って妻が離れた間、沖田君は台所のガスコンロに掛けられていた鍋を見ていた。その顔はどこかここではない遠くを見るようだ。
「沖田君?」
呼ぶと、はっとしたように私を見て微笑む。泣き出す一歩手前のような顔に、私はどきりとする。
「芹沢さんのことを思い出していました」
「……」
沖田君の記憶の暗部だろう。
「京に着く前。近藤さんが芹沢さんの宿を取り忘れたことがありました。元来、そういうことが苦手な性分ですからね、近藤さん。へそを曲げた芹沢さんが暖を取るという名目で通りで大きな焚火を始めて」
割と知られた話だ。
芹沢鴨の暴君振りを示す一説。
鍋の味噌汁が沸騰しそうになったので、私が火を止める。沖田君はそれをじっと見ている。
へそを曲げた芹沢を宥めたのは沖田君だったとかなかったとか。
芹沢鴨はその後、暗殺されるが、その主犯格に沖田君の名前が挙がっていたりもする。
さんなんさんもその暗殺には参加し、彼は原田左之助と共に平山五郎の寝首を斬るのだ。
――――ん? 平山五郎?
どこかで、最近、聴いた名前だ。
いつどこでだっただろう……。
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