表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/136

苺大福

 私は苺大福を頬張る沖田君をじっと見る。

 『新撰組顛末記』に「後年に名を残した剣道の達人」とある彼は、今、至極幸せそうな顔でもしゃもしゃと大福を咀嚼している。大福は漉し餡だ。致し方なし。


 あれは沖田総司ではないぞという烏の言葉が蘇る。

 どういうことなのだろう。

 影、とは。


 沖田君は新撰組の恰好をして、昔の記憶を語るではないか。

 そこまで考えて私ははっとした。


 逆に言えば、新撰組の隊服を着て、沖田総司の記憶を語れば、それは誰でも沖田総司足り得ることになる。

 気付いてはいけないものに気付いた心地で、私は湯呑の翡翠色に目を落とした。


「沖田君は」

「はい」

「初めて人を斬った時、どう思った?」


 沖田君の和やかな顔がふと変わる。解っている。これはだいぶ、踏み込んだ質問だ。

 彼の記憶の深奥に触れる。

 だからこそ私は訊きたかった。


「肉は案外するりと斬れると思いました。骨の邪魔さえなければ、人とは存外、たやすく斬れるものなのです」

「……」

「相撲はお好きですか」


 今度は逆に私が問われた。また唐突な問いだ。

 私は思うままを答える。


「いや、苦手なんだ。実は。どうしてかな。お相撲さんを見ると、何だか胸のあたりが苦しくなる」


 沖田君が庭を向き、苺大福の二つ目に手を伸ばす。大福がびよよよよと伸びる。


「そうでしょうね」


 さもありなんと頷かれ、私はどうしてそんなことを訊かれたのか解らなかった。

 随分、日が長くなり、今、ようやっと周囲の空気に黄金の光が満ちる。


 だって私は。


 うん?

 何だ、今の。

 今、私は何を考えようとした?

 一瞬、胸を翳りがよぎった。

 まあとりあえず、苺大福は美味いなあ。

 旬の味だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ