苺大福
私は苺大福を頬張る沖田君をじっと見る。
『新撰組顛末記』に「後年に名を残した剣道の達人」とある彼は、今、至極幸せそうな顔でもしゃもしゃと大福を咀嚼している。大福は漉し餡だ。致し方なし。
あれは沖田総司ではないぞという烏の言葉が蘇る。
どういうことなのだろう。
影、とは。
沖田君は新撰組の恰好をして、昔の記憶を語るではないか。
そこまで考えて私ははっとした。
逆に言えば、新撰組の隊服を着て、沖田総司の記憶を語れば、それは誰でも沖田総司足り得ることになる。
気付いてはいけないものに気付いた心地で、私は湯呑の翡翠色に目を落とした。
「沖田君は」
「はい」
「初めて人を斬った時、どう思った?」
沖田君の和やかな顔がふと変わる。解っている。これはだいぶ、踏み込んだ質問だ。
彼の記憶の深奥に触れる。
だからこそ私は訊きたかった。
「肉は案外するりと斬れると思いました。骨の邪魔さえなければ、人とは存外、たやすく斬れるものなのです」
「……」
「相撲はお好きですか」
今度は逆に私が問われた。また唐突な問いだ。
私は思うままを答える。
「いや、苦手なんだ。実は。どうしてかな。お相撲さんを見ると、何だか胸のあたりが苦しくなる」
沖田君が庭を向き、苺大福の二つ目に手を伸ばす。大福がびよよよよと伸びる。
「そうでしょうね」
さもありなんと頷かれ、私はどうしてそんなことを訊かれたのか解らなかった。
随分、日が長くなり、今、ようやっと周囲の空気に黄金の光が満ちる。
だって私は。
うん?
何だ、今の。
今、私は何を考えようとした?
一瞬、胸を翳りがよぎった。
まあとりあえず、苺大福は美味いなあ。
旬の味だ。





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