烏
帰り道、近所の柿の樹に留まった烏から妙に視線を感じた。
沖田君が以前、烏と話していたが、同じ烏だろうか。余りにもじっと見てくるので、私はつい悪戯心を出した。時は夜。残業で疲れていたというのもある。
「にゃ~ご」
ものすごく莫迦にした視線を感じるのは気のせいだろうか。やった私自身にしろ、後悔していた。心に小さくないダメージを受けた私は、早々にその場を立ち去ろうとした。
「あれは沖田総司ではないぞ」
足が止まる。今、この烏が喋った。喋ったこと自体が問題なのではない。言った内容が問題だった。
「あれは沖田総司ではないぞ」
烏は私の混乱を承知のように繰り返しそう言って、観察するごとく私を眺め遣った。
沖田君が沖田君でないなら何だと言うのだ。新撰組の隊服を着て、沖田総司の思い出話を語る。紛う方なき沖田総司ではないか。
――――沖田総司は愚かだった。
そう言った沖田君を私は思い出した。
胸を濡らした布で撫でられた心地がした。
「……沖田君でないなら、誰だと言うんだ」
「お前がよく知っている者」
「意味が解らない」
「賽の河原で石を積んでいないかという心配は要らない」
烏の不意の話題転換に、そしてその内容に、私は今度こそ心臓を掴まれたように感じた。
「あの子を知っているのか」
「ようく知っているとも。影も知っていただろう」
影? 沖田君のことか?
突然、烏が羽ばたいた。あたりに黒い羽が散る。
私は茫然としていた。
もしあの子が生きていたなら、今頃は八つ。
可愛い盛りだった筈なのだ……。
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