沖田君、スーツを着る
空気が少し温んだ日だった。
紫を帯びた陽光が物々の影を縁取り、色合いを微妙に変える。
帰宅すると妻が、おねだりする時特有のポーズで、上目使いに私にすり寄ってきた。
沖田君は相変わらず縁側でのほほんとしている。脇にはみたらし団子と茶の入った湯呑。
「沖田君にスーツ?」
「そう。彼の洋装って貴重じゃない? 貴方のをちょっと貸してあげて頂戴よ」
「それは構わないが……」
西洋好きの沖田君なら抵抗もないかもしれないが……。
要は着せ替え人形の一環だなと妻の顔を見ながら思う。女性というのは幾つになってもそうした遊戯を喜ぶものなのか。
着方が解らないだろうと、寝室で私が、沖田君が着替えるのを手伝う。沖田君はやはり別段、抵抗ないらしく大人しく着物を脱ぐ。羽織を脱ぐ時だけ一瞬の躊躇があった。大事な隊服だものな。
下着姿になった彼に、ああ、やっぱり褌なんだと妙な感心をしながら私はシャツだの何だのを着せていく。何だか彼のお父さんになった気分だ。こうして妻のたっての要望で、沖田君は私の一張羅に着替えた。サイズはやや大きい。当時の人は男性でも今と比べると小柄だった。
果たして妻の反応は。
「素敵!」
目が輝いている。
おい、私の時でもこうは輝かないよな?
沖田君は私の一張羅(ブランド名は差し控える)のスーツを着たまま夕飯の食卓についた。やはり物珍しそうにきょろきょろ自分の手足を見回している。妻はもちろん写メした。
しかし様になるなあ、くそう。
イケメンは何を着てもイケメンなのだ。
夕飯はカレー粉のふんだんに効いた鶏肉のカレーライスで、沖田君はこれまた物珍しそうに食べていた。一口目は結構、慎重だったが、二口目以降はすごいがっついてた。お気に召したらしい。
私はビールを飲みながら、一張羅にカレーの染みが出来たらどうしよう、と少しびくびくして沖田君を見ていた。
今日は沖田君のカレー記念日。
いや、スーツ記念日か?
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