お元気で
沖田君は茫然とした表情だった。自分の両手を見て、それから私を見た。子供のように澄んだ、彼特有の瞳だ。
「ご亭主。僕は」
いつの間にか雨音が消えていた。雷の音も。
青と緑と白の空間。本物の沖田君が眠る場所だ。
眠る彼を取り巻くように、沖田君と、土方君、斎藤君が立っていた。
沖田君は地に膝をつけたままだ。土方君と斎藤君の表情は静かだった。
私は、彼らがこの時の到来を予感していたのだと察した。沖田君の姿が、足先から金色の砂のようにこぼれ輪郭を失っていく。さらさらと。このままでは。このままでは沖田君が消えてしまう。
私は必死に彼にしがみついた。行かせるまいと。
沖田君は息を呑んだが、やがて宥めるように、私の背を撫でた。
「ありがとうございます。ご亭主。最後まで、ご迷惑をおかけしましたね」
「沖田君」
「奥方や芽依子さんにもよろしくお伝えください」
「嫌だ」
「……ご亭主」
「クリスマスも、正月も、一緒に過ごすと言ったじゃないか」
「申し訳ありません」
そう言う間にも沖田君は金の砂と化していく。抱き締める背中の感触が、儚くなった。
「嫌だ、私は嫌だ、君がいなくなるなんて」
「ご亭主。すぐに戻ってきますよ」
「嫌だ」
「お元気で」
ぱさり、と、全てが金色になった。沖田君は消えた。
消える寸前、見せた笑顔は、天真爛漫、純真無垢なものだった。
土方君と斎藤君が、哀惜の色を宿した顔で、私と、金色の砂を見ている。
彼らは静かに空間から姿を消した。もう会うことはないのだろう。なぜかそう思えた。水の中の沖田君は、まだ眠っている。
瞼が、ぴくりと震えた。
明日で最終回を迎えます。
見届けてやってください。





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