斬れるか
土方君が腕を組み、目を閉じている。西瓜を食べ終わったあと。
沈思黙考といった風情だ。何を考えているのだろう。彼は生前から策士であり、自分の考えを容易に人には見せない。烏がかあ、と鳴いた。あの烏だろう。
もうあたりは宵闇に包まれてきている。少し経てば星が光り始めるだろう。
沖田君が何かを投げた。烏は悲鳴のような雄叫びを上げ、退散した。
「何を投げたんだい?」
「笄です」
ああ、脇差についてるあれね。
「あの烏は忌々しい」
いつの間にか目を開けていた土方君が苦い声で言う。憎まれっ子ではあるよね、あの烏も、君も。私はこっそりそんなことを思った。
「ご飯ですよ~」
はい、妻よ。いつものそれ、ありがとう。
嫌な空気が霧散する。
海老と胡瓜の中華風炒め、冷やしうどん、出し巻き卵。
これは日本酒かな~。
るんるんと私は硝子の徳利で、氷を入れる箇所がある物に氷を装着し、純米吟醸を注ぐ。とくとくとくとく、と。これ、好きなリズムなんだ。
食卓に着いた私たちは、めいめい食事と酒を楽しんだ。妻も呑兵衛だから、純米吟醸の減りは早い。酒と食べ物は私たち夫婦のささやかな贅沢である。食事が済んだあと、書斎に籠ってぐるぐるー、と椅子を回して遊んでいた私に、咳払いの声が聴こえた。
「あ、土方君。いたんだ」
「……さんなんさん。あんた、だいぶ人が変わったな」
「そりゃ生まれ変わりだし」
「見た目はあんまり変わらんのにな」
「え? イケメン? ありがとう」
「池面って何だ」
「知らないのかい、土方君。池の面に清らかに映るくらいの男前のことだよ」
嘘八百を吐いてみた。
土方君はどこか呆れた目で私を見ていたが、やがて真剣な顔つきになると切り出した。
「さんなんさん。総司を、斬れるか」





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