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徒花
雨がぱらつき出した。密やかな足音を立てて、何事かが迫ってくる。そんな予兆を思わせる雨だった。沖田君たちと屋内に避難した私たちは、妻の焼きビーフンに舌鼓を打った。もちろん、ビールも一緒だ。
なぜだろう。
後に思えばこの瞬間、この時間が明瞭に私の脳裏に焼き付いて離れないのだ。私はある種の悲壮な覚悟をしていたのかもしれない。無意識に。
沖田君も土方君も斎藤君も寛いでいた。皆、どこか懐かしそうに雨の降る外を眺めている。生前の、雨降りの記憶を思い出しているんだろうな。私もまた、例に違わず前生の、浮かんでは消える雨の日の記憶を懐かしんでいた。あれから実に百年以上が過ぎたとはとても思えない。私はさんなんさんになった気分で、文明開化の行く末を偲んだ。
私たちは欠片だった。
小さく散らばった欠片たちが、不意のきっかけで寄り集まり、一つの形を成した。それでも個は個だった。どこまでも。土方君はそれを一集団にまとめ上げようと尽力した最たる男だろう。だが、寄り集まった器はやがてまた散り散りになり、欠片に戻った。新撰組の輝かしい戦歴は、ある一期間のみの完成された器だ。時代の徒花だったのだ……。
徒花の名残を惜しみ、私たちは黙々とビールを飲んだ。
もう、すぐそこ。
足音は迫っている。





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