兄弟みたい
書斎で目覚めた私は、びっしょりと汗を掻いていた。背中にも額にも。恐ろしい言動をやってのけたものだと自分でも思う。鷹雪君の呪術にしろ、斎藤君の剣にしろ、本気になられたら割って入れば命はない。今回は、辛うじて退いてくれたものの、次にも私が、そして彼らが無事で済むという保証はなかった。もう今日はこれ以上、書斎で調べものをする気力もなく、私はシャワーを浴び、脳みそと心の疲れを取る為にもう一個、プリンを食べた。不可抗力だ、これは。決して鷹雪君たちをだしに甘味に浴している訳ではない。だが、この美味さよ。堪らない。
紗々女にも食べさせてあげたかったなと思い、思ったところで私は自分の頬を叩いた。
買ってきてくれた妻に申し訳が立たないではないか。
前世は前世、今は今だ。
沖田君たちの存在はまあ、ちょっとイレギュラーとして。
プリンを食べて歯磨きをした私は、ようやく床に就いた。妻はすっかり夢の国の住人だ。ある意味私も、先程までそうだったのだが。横になると途端に眠くなった。やはり陰陽師の夢は熟睡とは遠いものらしい。寧ろ、疲れた。眠りの中で、夢を見た。正真正銘、普通の夢だ。
私と妻の子供が、着物を着て神社境内にいた。千歳飴を持っている。元気に走り回る姿が胸に迫る。生まれてこなかった我が子。きちんと正装して笑っている。
夜明け前に目が覚めた私は、妻に知られないようこっそり涙した。
その日の夕刻は沖田君だけが訪れて、和やかだった。エクレアを二人で食べる。コーヒーゼリーの入った、少し変わったエクレアだ。空もまた、コーヒー色に染まろうとしている。
冷やし豚しゃぶとニラの卵とじ、人参と牛蒡の糸コン金平を食べ、ビールを飲んだ。
沖田君も私も、何事もなかったかのように笑い合い、喋り、けれどこの時間が得難く貴重なものだと互いにどこかで認識していた。
沖田君を送り出した妻が、微笑んで言う。
「兄弟みたいね」
「沖田君のほうがイケメンだよ」
「それはそうだけど、貴方だって捨てたものじゃないわ」
お世辞でもありがとう。
そう言う私の心の声が聴こえたように、妻が私の顔を覗き込んだ。
「本当よ。本当に、そう思っていたのよ」
妻は続けた。
「あの、野試合の時から」





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