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フルーツサンド
すっかり夏である。
ビールの美味しい季節。まあ、ビールはどの季節でも美味しいが、やはり夏は格別である。じりじりと焦がされるような暑気の中、家に辿り着いた私は、まず風呂に入った。上がって縁側に行くと、今日は沖田君と斎藤君の二人がいた。妻が苺、桜桃、キウイに生クリームが入ったフルーツサンドと牛乳を出してくれる。思わぬ甘味に私の咽喉が鳴る。今日は奮発したんだね。沖田君と斎藤君も物珍しげに、しかし美味しそうに食べている。良いことだ。美味しい物を美味しく食べられるのは人間が生きる基本である。死んでるけど。
そろそろ蚊の出てくる季節なので、豚の蚊遣りに蚊取り線香を焚いている。沖田君たちはその匂いが少し苦手らしい。そんなものだろうか。
斎藤君は維新後、名前を藤田五郎と改める。永倉新八は杉村義衛。維新前に剣客として名を馳せた彼らは、維新後、隠れ住むようにひっそり生きねばならなかった。鬱屈や憤懣もあっただろう。だが、今、目の前にいる斎藤君からはそんなものは微塵も感じられない。美味そうにフルーツサンドにかぶりついている。言い知れぬ苦労をしたであろう彼の、そんな姿を見ると心和むものがある。良かった。美味しい物は人を良い方向に導く力があると私は信じている。





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