並べ替えられたピース
夕方頃、帰ってきた土方君は難しい顔をしていた。沖田君は普段と余り変わらない。首尾は良くなかったのだろうか。
鮪の醤油漬け、山菜の煮浸し、里芋の味噌汁などを食べながら、私は土方君の表情を窺う。藪を突いて蛇に出て欲しくはない。美味と美酒に意識を集中させるのだ。
小常さんはよく出来た人だなあと感心してしまう。いきなり現れた男たちに、いくら土方君がいるとは言え、衣食住の世話をしてくれる。きっとご夫君の生前も、良い奥さんだったのだろう。
「薩長が手を組むなど有り得ない。近藤さんは笑って言ったよ」
沈黙を破った土方君は、苦い口調でそう告げた。そして、ただ、と続ける。私を見て。
「さんなんさんに逢うことは出来た」
私の鼓動がぴょんと跳ねる。
この時代に生きる、もう一人の私。
「詫びたら、気にするなと言われた。病やつれした顔で」
詫びる。総長という形ばかりの職に置いたことをだろうか。実務に関わらせず、蔑ろにしたことをだろうか。いずれにしろ今の私に土方君に対して思うところはなく、さんなんさんが土方君を許してくれて良かったと思った。
「斎藤に聴いたが、八条くんだりまでしたそうだな」
「うん。元の時代に戻るのに、土御門晴雄さんの助言を聴きに」
「どうだった」
私は答えようとした。
答えようと口を開いたところで、目眩が起きた。記憶が氾濫する。整然と収まっていたパズルのピースがざらざら並び替えられるように。
紗々女の顔が浮かぶ。
紗々女の子を抱く私がいる。稚い命の柔らかさ。
愕然とした。
それまでになかった記憶が、正しいものとして私の中で認識されてしまったのだ。
私は、切腹して果てることなく、奥州までの道のりを、土方君と共にした……。





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