「143話」
「――そんな訳でどうだい?」
何も無い白い空間。
そこにポツリと存在する胡散臭いおっちゃん。
そいつはにこやかに笑みを浮かべながら俺にそう声をかける。
あ、ちなみにこのおっちゃんこんなんでも神様らしいよ?
どうも転生させてあげるから、世界樹を動かしてモンスターに対抗せいってお話らしい。
「え、いやその……転生自体は嬉しいです。 でもそれ現地の人にやらせれば良いのでは……」
転生自体は嬉しいけど、世界樹動かすのとか別に俺じゃ無くてもよくね?ってお話ですわ。
現地民でいいじゃない。
世界樹とか存在するファンタジーな世界なら、別に神様がお告げとかしたりしてさーと思うわけですよ、俺は。
「ちょっと事情があってそうもいかなくてね。 色々あるんだよ、ダンジョン側の神様との決め事とか」
事情ねえ。
なんだろうね、干渉できる範囲が決まってるとか?
下手に現地民にやらせるとダンジョン側も何かしてくるとか……まあ、俺の想像だし、あってるか分からんけど。
そう言うことなら受けてもいいかなーとか、そっちに気持ちが傾いてきた。
だって転生出来ちゃうし、ファンタジーな世界だし!
……ただちょっと気になる事があるんだよね。不安要素と言うか何というか。
「はあ……ちなみにその、世界樹?と一体化した後って元に戻れるんですよね?」
そう、一体化ってのが気になってた。
一体化したのはいいけど元に戻れずそれっきりです! なんてことになったら目も当てられない。
転生した意味ないじゃん。いやだよ、ずっと木と一体化したままとか。
「……」
おいこら、なんで黙るし。
「っちょ、戻れないんですか!? それダメじゃないですかっ」
やだやだやだっ。
せっかく転生しても木と一体化する運命なんてそんなの嫌やっ!
「いやいや、半身が訴えてくるだろうけど、別に強制じゃないからね。 とりあえず転生してみて、やるかやらないかはそれから決めれば良いから。どう?」
「……そう言うことなら」
強制じゃない……?
半身が訴えてくるとか怖いんですけど、でもそういうことなら……いいかな?
とりあえず転生出来るんだし。
というわけで、俺はこの胡散臭いおっちゃん……というか神様の提案に乗ることにしたのであった。
「そう、よかった。なら早速行こうか……あ、そうそう過去に転生した人達はね、結局自分の意志で世界樹を動かすことを決めていたよ」
「……俺がそうとは限らないですよ」
神様は満足そうに笑みを浮かべ、そう俺に話す。
……過去に転生した人は自分の意志で……とは言うが、俺はたぶんそうならないと思う。 だって、それってつまりは自殺するようなものだし、とてもじゃないけど俺がそんな選択する勇気とかないよ?
てか、過去に転生した人が居るって事にちょっと驚いた。毎度こんなことやってるんかいな。
「そうだね。 ああ、それと向こうに行ったらここでの記憶ほぼ忘れるからね。 それじゃがんばって」
「へっ!? ちょっ――」
――ちょっとまって!
そう言いかけたところで俺の意識は反転し、次に目覚めたときは森の中で木に半身をめりこませていた。
やっぱさ、あの神様は性格が悪い。
「あのクソ神様。なんでこのタイミングで思い出すかね……」
世界樹に触れた俺の腕は、すでに世界樹と一体化し、それは全身へと広がりつつある。
忘れていた記憶、世界樹と一体化することでそれが蘇るようになっていたのだろう。
なんのために? そんなのは神様しかわからない。
俺にわかるのはこれで街も皆も救われ……そして俺の意識は世界樹に取り込まれるってことだけだ。
「……絶対、むしってやる」
そう、呟いたところで俺の意識は完全に世界樹へと取り込まれた。
ウッドが世界樹へと向かっている間もタマさん達の戦いは続いていた。
彼らの足元には先ほどブレスを浴びせかけたドラゴン、その死骸が転がっていた。
「ちょっと焦げたニャ!」
「……俺らはウェルダンなりかけたがな」
ぷりぷりと怒っているタマさんであるが、怪我らしい怪我は負っていないようだ。
せいぜい尻尾の毛が少々焦げた程度である。
とは言えそれはタマさんがレベル高いからであって、まわりのダンジョンシーカー達は無傷とはいかなかったようである。
桃の自然回復では追い付かず、かなりの量のポーションを消費していた。
ドラゴン達を倒してもそれで終わりではない、ドラゴン達が死んだことで空いた空間に新たなモンスターの群れが向かってきている。
いずれも推奨レベルが100を超えるモンスター達であり、厳しい戦いを強いられるのは間違いないだろう。
指導者が動き始めた今となっては、一時撤退するのも難しい。
街に数発撃ちこんだ指導者であるが、一番の脅威はここにいるタマさん達だと判断し全軍をもって仕留めるつもりなのだ。 すべての敵が街に目をもくれず、徐々に輪を狭めている。
このまま消耗戦の末にタマさん達が指導者をしとめるか、それとも力尽きるか……そんな状況ではあるが彼らの顔には焦りや悲壮感といったものは浮かんでいない、皆いずれも例外なく興奮し、殺気をはらんだ目をギラつかせている。
そして近寄ってきたモンスターを迎撃しようと構えたところで、異変はおきた。
「ニャーッ!?」
「うぉぉぉおっ!??」
街を中心に地面から天に向かい根が爆発するように生えてきたのだ。
それはすべての視界を覆いつくすように、天に向かい広がり、そしてモンスター目掛けて一斉に降りていく。
「……世界樹ニャ。 やっと動いたニャ」
その光景を見たタマさんがそう、呟く。
世界樹の根は、すべての敵を容赦なく、すり潰し、貫き、引き裂き殺していく。
それは指導者ですら例外ではなかった。
指導者は自分に向かう根に向かい弾を放ち、何本もの根を破壊するに至るが、そこまでであった。
1本が指導者の腕を切り裂き、足をつぶしたところで、もう指導者に抵抗する術はほとんど残っていなかった。 最後には上下に貫かれ、引き裂かれ、力尽きる。
そうして全ての敵は世界樹によって滅ぼされる。
世界樹が動き出してからほんの数分にも満たない間の出来事であった。
「今回の実はでけえなあ」
ダンジョンシーカー達の手にある赤く大きな実。
戦闘終了後に世界樹に実り、戦闘に参加したもの一人一人の元へと落ちてきたものである。
それを眺めるダンジョンシーカー達……特にタマさん達と前線で戦っていたもの達はどこか気の抜けた顔をしていた。
だが、それは無理もないことだろう。
ドラゴンと戦い体も温まり、さあこれから死闘が始まるぞと漲っていたところで世界樹の登場である。
肩透かしをくらった気分なのだ。
「ニャ。 ……味も結構いけるニャ」
「もう食ったのかよ」
が、タマさんは大した気にもしていないらしい。
ぺろりと平らげ、尻尾の毛がもとに戻ったのを確認するとウッドを探しに動き始める。
「ウッドどこ行ったニャー?」
ウッドが居た持ち場へと向かうがそこにウッドの姿はない。
周りに居たものへとそう声を掛けるが、皆いなくなった事に今気が付いたように首をかしげている。
「いや、そういや途中から見てない……おい!誰かみてねーか?」
タマさんに声を掛けられたダンジョンシーカーは、大きな声を上げ心当たりがいないかと周りに問う。
そうすると一人、見ていたものが居たらしく手を上げ答えを返す。
「あいつなら――」
――世界樹のほうへ向かったぜ。
その言葉に従い世界樹へと向かったタマさんは、そこで世界樹の根元でウッドの装備を見つける。
装備はまるで人の形をした木の瘤にめり込んでいた。




