「141話」
壁の下にわさぁーっとモンスターが張り付いている。
目の前にある壁をどうにかしないと人を襲えないと分かっているのだろう、モンスターは壁をがっつんがっつん攻撃したり、よじ登ったりとどうにかして壁を攻略しようとしていた。
それに人が出入りするように作られた扉にも同じように大量の敵が張り付いているが、こちらは敵の死体で入り口が塞がっており、破られるには至ってないようだ。
その光景を見た俺の顔はたぶん真っ青になっていることだろう。
さーって感じで血の気が引いていくのが分かったもん。
「まだ中層の敵ニャ。 あれぐらいならすぐ蹴散らせるニャー」
なぬ。
蹴散らすってこう詰められると厳しいんじゃ?
敵がぎゅうぎゅうに密集しているところに突っ込むってことよね……壁の一角に近接ぽい人らが集まってる。まじでいくんかな? ……って一気に飛び降りたぞっ!?
飛び降りると同時にモンスターの群れに突っ込むダンジョンシーカー達。
モンスターと激しくぶつかり合うと、そのまま弾き飛ばして突き進んでいく。
「まじだ、ぼっこぼこにしてる……てかあの死体の山やばくない? 下手するとあそこから登り始めるんじゃ……」
彼らが通ったあとには大量のモンスターの死体が山となっている。
特に壁際は事前に倒したモンスターの死体がたまっていたこともあって、実際そこから登ろうとしている個体がちらほら居たりする。あかん。
「燃やして吹っ飛ばすニャ」
「過激ぃー!」
それに対するダンジョンシーカーの対応は過激であった。
燃やして灰にして風で吹き飛ばす、だ。
足元死体だらけだと近接の人らもやりにくいだろうし、しょうがないね。
とまあ、そんな感じで壁際に迫られてもそれなり余裕でこなしていたのだけど……2日目の夜になって状況が変わってきた。
下層の敵の割合が増えてきたのである。
「おい! ポーション余ってねえか!? こっちポーション切れちまったんだ!」
「北の人員足りない! 増援よこせっ」
銀のダンジョンシーカー達では大量の下層の敵を相手するには厳しいらしい。
徐々にけが人が増え、配布されたポーションを使い切る人らも現れ始めた。 それに徐々に押され始めて壁の上にたどり着く個体もちらほら現れ始めている。 やばい感じになってきたぞ。
「……やばくない?」
タマさんにそう話しかけると……全身フル装備で固めたタマさんがいた!
え、まじで。 タマさんって裸がデフォじゃなかったんかい! てか装備持ってたのね……今までつけてるの見た事なかったよ。
「下層の敵も出てきて、しかも数が多いニャ。 そろそろタマ達の出番だニャー。 ……ちょっとまずいかもニャ」
「え」
な、なんか最後にぼそっと不吉なことを言いませんでしたか??
タマさんがそんなことを言うって相当やばいんじゃないの……。
「……あのゴリさん」
「おう」
ちょっとゴリさん教えて!
「タマさんがちょっとまずい的なことを言ってたんですが……もしかすると結構ピンチだったりするんですか?」
「……まあ、確かにちょっと不味いと俺も思う」
まじすか。
タマさんに加えてゴリさんもそう思うのか……まじかー。
「普通は下層の敵になるほど数も少なくなっていく……が、未だに敵の数が減っていない。 前回ここのダンジョンで指導者が発生したときは3日で終わったって話だが……それも世界樹の力があってのことで実際にはかなり苦戦していたのかも知れん」
「そうですか……3日ってことは明日には世界樹が?」
敵の数減ってないって、それもっと強いのがこれから出てくるよってことやん。 もう金でもレベル上の人しか対応できないでしょそれ……って、前回は3日で終わったとな? 世界樹か、世界樹の力なのか。今回もぜひそれでお願いしゃす!
「いや、そうとも限らん。 どうも規則性は無いらしくてな、3日の場合もあれば7日かかる場合もある。 そもそも何もしない場合だってある」
「え!?」
ゴ、ゴゴゴゴリさん! 今なんと!?
何もしないってどういうことなのさー! しっかり仕事しなさいよ世界樹!
「世界樹の個体差なのか何のか、俺にはさっぱり分からんがな。 何もしないままかなりでかい被害を出した街もある」
「ま、まじすか……」
ちょっと……いや、ちょっとじゃなくそれは困る。
一体どうすれば――
――せ……に…かえ。
あん?
また思考に何かが……せにかえ? 何、背に腹は代えられないとか? 良くわからんわっ、
くそぅ……とにかく何か手段を考えないと。
……各地にちらばった分体を集めておいて、戦闘していない箇所で可能な限り毒を作らせていざとなったら自爆させる? たぶん効果的なのってそれぐらいだよな。 根っこで攻撃させたりすると味方への誤爆が怖いし……よし、そうしよう。
金の人たちはやはり強かった。 壁際に居た敵は一掃され、さらには壁から1kmの地点まで敵を追いやることに成功している。
元から高レベルな上に桃を使ってブースト掛けているので当然っちゃ当然だけど……でも。
「金の人たちにも被害が出始めてる……毒も桃も作りにくくなってきた……まずい、まずいぞこれ」
徐々に下層の敵でも強いのが増えてきたようで、怪我をする人がちらほらと出てきていた。それに俺もそうだけど、分体が毒を作るのに苦労しているようだ。敵が強くなりすぎて抑えきれず逃げられてしまうみたい。 今は弱っている敵を狙ってなんとかしているけどその内分体じゃ吸えなくなってしまうだろう、そうなったらあとは自爆させるしかない。
怪我をしている人については、今は桃の持続する回復効果で勝手に治る程度ですんでいるけど、いずれポーションのお世話になることになるだろう。
だと言うのに敵の数はまだまだ多い、一応森から平原までに少し空白があるのでもう打ち止め見たいではあるけど、それでも視界のほとんどを敵が埋めている状況には変わりない。
つまり、とてもまずい。
それにさっきから変な声が聞こえてくる頻度が上がっているのがとても気になる。
言葉もだんだんと聞き取れるようになってきているし……どうやら世界樹の元に向かえと言ってるようだ。 行ってどうしろと言うのだ。
そう、悶々としているとふいに背後から声が掛かる。
「ウッド、桃あるかニャ?」
タマさんだった。
肉球効果で足音しないんだよね……って、今装備つけてるか。いや、実は足の裏まで覆ってないとか……?
っと、桃か。 確か俺の分ほとんど使ってないし、期限切れてないのが結構残ってたよな。
「あ、タマさん……えっと、まだ何個かあるよ」
うむ、残ってた。
「ニャ。 ちょっと貰っていくニャ」
そういって桃を持っていくタマさん。
よくよく見れば片手には例の蛍光紫ポーションもある……ま、まさか。
「タ、タマさん? まさか突っ込む気じゃ……?」
「指導者のとこまでは行かないニャ。 指導者の手前に居る連中をやるだけニャ」
指導者までは行かないのか……でも奥に行くってことは確かなんだろう。
正直止めたいけど、このままだと不味いってのも分かっている……それにタマさん行く気っぽいし。
「……分かった。 俺も援護するよ。 根っこと蔦をはわせて……頭の触手も一緒なら視界確保できるしね」
「ニャ」
あまり遠いときついけど、頭の触手で視界確保すれば一緒に戦っても誤爆はない。
タマさんが出張るような相手に俺の力がどれだけ通じるか分からないけど、やれるだけやろうと思う。




