2017年・夏
五月も半ばの頃。イチゴ達が花を付け、緑色の実を付け始める頃。
室内で育てていたサンカヨウとレモーネメロンの苗を外へと持っていく。
と言っても、サンカヨウは未だに根っこしかなく、生えてくる気配は無い。
メロンの苗は双葉が出たばかりだ。
ネットでメロンを調べると、どうも水はけを良くしなければならないらしい。
なるほど、今までの失態はそのせいだったのか。
気付いた以上、水はけは良くしなければならない。
庭にやってくると、イチゴだらけの庭が出迎えてくれる。
一つの株に十以上の実が成っている。今年は豊作だ。
すでに赤く色づいている実さえあ……く・わ・れ・て・るっ!!?
バカな!? あと一日待って回収しようとしていた赤い実が、成熟したイチゴが、齧られている、だとっ!? バカな!? おのれ虫どもっ、イチゴの初めてを奪いやがったのか!?
しかし、どの虫にやられた? お前かアリ! 貴様等はアリコロリでも喰ってやがれ! 設置じゃ設置じゃっ、ひゃ―ッはッは。
それともお前らかカメムシ共っ、ビンにアルコール入れてこの中に落としてくれるわっ。
ひゃーっはっはっは。貴様等が悪いのだ貴様等が……
イチゴに、ゾウムシみたいなのが、付・い・て・る・よ?
お~ま~え~か~ッ。ぷちっ。
いやー、敵が見つかってよかったよかった。
さぁて次はメロンの植え替えだな。庭には直植えでいいか。
鉢に二本くらい植えかえるかな。底の方に軽石……はないからバーキュライト? なんかよくわからんが水はけいいって書いてあったから買って来たよ。これを底に撒いて、土は野菜用のでいいのか。よし、これでポッド付き苗を植えこんで、回りの土より多少盛り上げればいいんだな。
よし、でけた。
それにしても、綿やらなにやら埋めた場所に草一本すら生えてないな。どうなってるんだ?
放置していても紫蘇と朝顔は普通に生えて来てるのに。
そして五月も終わりに差しかかった頃のこと。今年も刈り忘れたアスパラガスが一本にょきにょきと伸びて草開く。
イチゴは大量に出来た。この前は巨大なカラスさんが庭に居て、やってきた人間を見た瞬間、あ、めっかった。みたいに振り向いて羽ばたく。
呆気に取られた目の前を優雅に飛び去っていく黒い掠奪者。食い荒らされた作物たち。
黄色人参が成長し、花を咲かせた。去年の冬を硬い地面で過ごした人参だ。おそらく根っこは他の雑草くらいしかない成長してない奴である。しかし、茎は木じゃないか? と思えるほどに立派に育ち、枝葉がしっかりと出来ている。ここまでになると根っこは栄養を取られてしまうらしく、もはや人参が埋まってる可能性は絶望的だろう。そもそもの話、人参にすらなれていないようなのだが。
メロンの葉は食い荒らされた。ころたんは既に死に体だ。
レモーネメロンの苗は未だに芽吹く気配はない。なぜだ?
室内で育成した個体は既に芽が出ているというのに。
仕方無いので室内のメロンの苗を直植えすることにした。次の日雨が降った。
瀧のような雨粒達に無慈悲に穿たれたメロンの双葉は、大地にひれ伏ししなしなとなっていた……
雨粒ども……テメェらの血は、何色だぁぁぁぁっ。
そして、外に出したサンカヨウの花は、根っこだけのまま、土に帰った。
六月。植えてもいないはずの朝顔と青紫蘇は今年も律儀に生えて来た。
どうでもいいことだがアスパラにはオス株とメス株があるらしい。
自宅の紫アスパラを調べて見ると、どうやらメスの方です。道理で出現本数が少ないと思った。
サヤエンドウがかなり伸びた。色が白くなりだしているのだが、これはやはり病気なのだろうか? 未だに健在ではあるがそろそろヤバいかもしれない。
その横に埋めてあったレモーネメロンは既に亡い。赤茶けた大地が広がるだけだ。
病気と虫避けのために隣に植えた甘長トウガラシだけがすくすくと成長している。
そしてその茎を締めつけるように生える朝顔。お前はお呼びじゃない。消えろぉっ。
朝顔は根っこごと取り払われた。
祖母が大好きなピンクの花が咲く花が至るところに咲き乱れている。
正直これはさっさと処分したい。何しろ繁殖力が強いので放っておいても増殖するからだ。
今年も自宅の庭だけではなく周囲の田んぼの畦やら別の家の庭先で咲き乱れている。
ちなみに我が庭にもいつの間にか現れたものなのでばら撒いた訳じゃない。いつの間にか現れたのだ。
しかも今年はプランターの一部に何故か出現しておりピンクの花畑となっている。抜くと祖母が怒るのでうかつに抜けない。
でも邪魔で仕方無い。奴らはどれだけ繁殖すれば気が済むのだろう?
イチゴのピークは終わってしまった。結局去年からの白イチゴやら代わったイチゴが現れることはなく、全て真っ赤に色づくイチゴだった。あの980円もしたイチゴの種類は何処に消えた?
そして、ある日、奴が……来た。
それは父が仕事先で見つけて持ち帰った存在だった。
虫籠に入れられたソレはひっくり返し、まったく動く気配が無い。
クワガタです。立派な角を持つオスクワガタは、死にかけてました。
折角なので休みの日にでも解放してやろう。そう思った次の日。
クワガタは物凄く活発に動いていた。
話を聞くと、昨日のは既に逃し、新たに一匹捕獲したのだとか。どっから手に入れて来るんだ。意味がわからん。どんだけクワガタに好かれた仕事場なのだ。
悔しかったのでクワガタは解放することにした。
虫籠から取り出し庭に降ろしてやる。
狭い籠から広がる世界に戸惑った様子のクワガタ。彼は少しじっとした後、歩道に向けて歩き出した。このままだと自転車に轢かれるか側溝に落下して死ぬので進行方向を逆に強制変更。
クワガタ君はピンクの花が咲き誇る場所へと向かって行った。
しばらく観察していると、草を昇り始める。
茎の群れを苦戦しながらも昇る様子はまさに探検家だ。
一本の花の先まで来ると、風に揺られてみょいんみょいんみょいんと花と共に揺れ動く。
小さな花がボールみたいに寄り集まるように咲く花だったので、そこを移動する姿はもはや滑稽でしかなかった。
やがて、苦労しながらも登頂を果たした彼は羽を広げる。
空高く飛び上がった彼は、まるでけっ、こんなシケた庭に居られるか。とでも言うように天高く舞って彼方へと去って行った。さらばクワガタ。君のことは忘れない。5秒くらい。
そして人知れず……室内で育てていた幸福を呼ぶ草が、枯れた。水分過多だった。
六月半ば、室内育ちのレモーネメロンがそれなりの高さになったので大型の鉢に植え替えベランダ飼育に切り替える。ついでに見つけたパッションフルーツを買い、鉢に入れた状態で庭先に設置。新たな仲間を加え、庭の猛者たちは雨季を越えて行く……
七月、ついにふれーぜるしっつぇる? ふりーぜるしぜる?? よく分かっていなかった花の名前が判明した。アルブカ・スピラリスというらしい。読めるかっ!?freezel flezzelとかそんな感じの綴りだったじゃん。どうやってアルブカって読むの!?
そんなスピラリスはプランターですくすく育ち、実? 花? なんか付けた。一週間後に見てみれば、朝顔の蔦に絞め上げられ、実っぽいのは消えていた。どこ……いった? す、スピラリーッスっ!?!Σ(゜Д゜)
当然、朝顔の蔦はずばずばっと十六分割しておいた。
当初危ぶまれたレモーネたちはどうやら峠を越えたようだ。ころたん共々細々育ち始めている。黄色い花も付いているので実が出来るのが楽しみだ。ところで、雄株しかみえない気がするんだけど、雌株はどこですか?
トマトとミニトマトの進撃が凄い。普通のトマトを育てるのは初だったのだが、まさかここまで生い茂るとは。そしてその陰でひっそりと枯れ始めるナスの花。ナァァァァァァースッ!?!Σ(゜Д゜;)
どうやら精力を軒並みトマトさんに絞り取られたようだ。もう、出せないよ……というようにひっそりとしなびていた。
しかし、やはりこの庭の勢力図は青紫蘇と朝顔が席巻している。至るところに青紫蘇が咲き乱れ、植えた植物には大抵朝顔が巻き付いている。
オカシイ、綿とか埋めた畝から一種類も出て来る気配が無い。雑草しか生えてない。あるいは朝顔しか……
ところで、パッションフルーツって蔓性なんだね、初めて知ったよ。
近くにあったミニトマト黄色の茎の一つに巻き付き、引っ張っていらっしゃった。
ダメだよパッションくん。とりあえず棒立てとくからこっちに移動を……い、イチゴォォォ!?!Σ(゜Д゜川)
パッションに絞められて、イチゴが密かに散っていた……
七月中旬 というか16日。
パッションフルーツは順調に伸び、茎の上をアリ達が闊歩する休日。
どうでもいい知識だけど外を歩く蟻たちは全員メスだそうだ。オス蟻は地中から出てくることはないらしい。子育ての時期だけ羽付きで出て来るのだとか。
しかも、外を探索するのは子育てを終えた年老いたメスであり、盲目に近いらしい。頑張れおばあちゃん軍団。
当然ながら茎から払い落しておいた。
今年はエルダーフラワーが随分と成長している。
前の台風時にプランターごと地面に落下して一部折れていたのだが、その分生命力が強くなった感じがする。
今年は一株分の花しかなかったが、来年は満開の花を見せてくれるだろうか? シロップ漬けにする未来はまだほど遠いらしい。
にょきにょきっと生えていたヤグラネギの先端が消えていた。
誰だ刈り取ったの!? おっかさん、これどーったの!?
先端を狩られたネギたちは徐々に茶色くなっていった……
トマトは相変わらず凶悪な成長率だ。無数に出来た巨大なトマト達の自重で垂れ下がり、地面すれすれに数十個成っている。
その側でナスが……生きてるっ!? 生きてたよ! ひっそりとだけどちゃんと実が一つなってるよ! まだ、彼は生きていた。精魂枯れ果てていなかった。
まだ死ねん。まだ死ねんっと必死に生きあがいている。
だが、その森の奥底で、ころたんがひっそりと……枯れていた。




