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ひざまずく騎士に、彼女は冷たい  作者: 遊森謡子
あとがき・創作メモ
17/24

あとがき・創作メモ

「ひとしずくの許し」と同時投稿です。

改めまして、重苦しいお話を最後までお読みいただきありがとうございました。恒例のあとがき&創作メモ、今回も書き記しておこうと思います。反省も書きますが自画自賛なんかもする、独りよがりなものですので、興味のある方だけ先へお進み下さい。


●きっかけ

遊森は異世界トリップが好きで、何作も書いています。神様の仕業型、巻き込まれ型、召喚型など色々な形があり、またその中でもヒロインがトリップしたことを悲しむ場合と喜ぶ場合と「まあいっか」という場合とあり。新しいパターンを思いつくと、つい書いちゃいます。

今回のも、「死にそうな人を助けるために召喚が必要って、新しくない?」という思いつきからスタート。シオンもあそこまでひどい目には遭わず、生真面目な騎士がいちいち「一日で戻る。君と過ごすために」みたいな甘々台詞を言っては「いや、それガチだよね?」とシオンが心の声で突っ込む的な、コメディにしようかと思ってました。ちなみに当時の仮タイトルは『君がいないと俺は死ぬ(物理)』←コレ

でも、魂の結びつきについて考えているうちに、コメディは難しいかも……と思い始めました。ヒロイン、この設定じゃヒーローと一生離れられない。他の人を好きになるかもしれないのに。かといって、仕方なくヒーローの側にいて絆されてラブいちゃは……私は嫌だなぁ。

それなら容赦なくシリアスで行くか、と練り直したのが、本作です。貴族社会の複雑な人間関係の中、過去の出来事に雁字搦めになっている男性陣。そんな所へ、元の世界の全てから断ち切られて何も持たずに堕ちたシオン。オルセードビジョンで見れば「泥沼に白鳥が一羽落ちた」というところでしょうか。

ちなみに、ヒロインがひどい目に遭う理不尽召喚を書くのは、『甲冑系巫女姫』で一度やっています。ヒロインはビクビクオドオドしてる女子高生、そして物語に精霊やら獣人やらが出てくる、はっきりファンタジーな作品でした。今度は恋愛・人間関係メインだから、ファンタジー要素はなるべくトリップ関係だけに絞って、それ以外はナシで行くぞ。

……そして書き始めたら……ええと、ヒロインが絆されてラブラブエンドと予想した方、かなりいらっしゃいましたよね? そう思われていることが感想やコメントでビシバシ伝わってきまして……

タイトルでヒーローとヒロインの上下関係は明示しているし、第一話の前書きにも「いびつな関係」だなんてネタバレを書いてしまったし、色々あるたびにシオンが「私には関係ない」と言っているし。それでもやはり人間とは絆されるもので、誰もがそう思っていて、そして確かにそういう物語が多いかもしれない、でもこれは違うのよーっ、と(笑) そんなようなことを感想のお返事や活動報告でチラチラほのめかしたんですが、あまり信じていただけなかったっぽい(笑) でも、それも含めて楽しかったです。最終話を投稿した時のカタルシスときたら!


●キャラクター

・シオン

シオンの一人称だったので、彼女の心についてはだいぶ本編中で語りましたが、リクエストでいくつか前日談をと言っていただきまして。ほんと、特筆すべきことはない公立高校の女子高生でした。成績はそこそこ良くて、今度初めて友達とアイドルのコンサートに行くのが楽しみ。お母さんと喧嘩して、仲裁に入るお父さんが何もわかってないのでイライラして。そろそろ進路にも悩み始めて。そんな感じです。

・オルセード

オルセードは生真面目一辺倒の仕事人間。女性の扱いには慣れていませんし、貴族らしい貴族(爵位をもらうまでは準貴族かな?)。ただでさえそんな彼が、生まれも文化も違うシオンに償うのは、本当に難しいことだと思います。とりあえずシオンの衣食住を貴族と同じように贅沢にして、縛らないよう自由に行動させようとしましたが、友人(と思っていた)ラーラシアがシオンに悪感情を持ってしまう。ハルウェルにも、シオンに近づくなと言ってはいますが、ハルウェルにとってオルセードの家は特別な場所。オルセードは、ハルウェルがシオンを召喚したことをようやく知ったその瞬間から、ハルウェルが幼児期の悪夢を追体験していることを理解してしまっている(しかもそれはオルセードの命を救ったせいであり、オルセードはそのおかげで国を救ってしまっている)ので、シオンに償うかハルウェルを罰するかを本当は選ばなきゃいけなかったのにそれができない。板挟み状態になっています。屋敷の人間たちも、ハルウェルをオルセードの家族同然に思っています。一応ハルウェルは、シオンが住むようになって以後は用があるときしか来なくなってはいるんですけれど。

シオンが、オルセードとハルウェル以外の人間に迷惑をかけたくないと思っていることに彼は気づき、また年をとって体の弱いレビアナをシオンが思いやる様子を見て、彼女の強さと優しさに惚れてしまうオルセード。苦悩しますね。たぶん一生。

・ハルウェル

ハルウェルのキャラクターはあっというまにできあがりました。自分の大事な人を救うために他の人の人生を台無しにするんだから、まああんな奴ですよね。なぜそんなことをしたのか、背景は考えましたが、だからといって許されないし、本人もわかっていてやった。間違った方の意味での「確信犯」ですので、最後まで謝りませんでした。ここで謝ったら、彼の中では「オルセードを救ったことが過ちであることを認めることになる」からです。

「シオンのことが生理的に嫌い、見れば殺したくなる、でもできないのでなるべく会わないし、会ったら反射的に言葉で攻撃」という基準があるので、本当に書きやすい奴でした。

でも、お父さんがどんな思いで異世界人の女性を選んだのかをシオンに思い知らされ、自分の覚悟がまだまだ甘かったことを理解、ラストシーンでは罪悪感に苛まれてシオンの目を見られなくなっています。謝ったら一つの区切りがついて、多少は楽になったかもしれません。でも、もう彼がシオンに会うことはありませんので、それも叶わなくなりました。今後ハルウェルが何かしら幸せを手に入れたとしたら、それは執着の対象であるオルセードをシオンがハルウェルから引き離したおかげでもあり、ハルウェルは一生シオンに精神的に頭が上がらないことでしょう。レビアナには元々頭が上がりません(笑)

最初ちょっと、ハルウェルのお母さんがオルセードの親を救うために秘術を使った設定にしようかと思ったんですよね。つまりハルウェルのお母さんがオルセードの家庭を崩壊させる形に……(やめましたけど)。いやー、もうぐちゃぐちゃですね。オルセードとハルウェルとシオンの間で色々な物がどんどん煮詰まっていく、そんな設定。


●本編

・第二話

トリップした直後、シオンはオルセードと二人きり。目が覚めて男と二人きり、というのはテンプレですよね。『離宮の乳母さま』(王子さまの守り人)でもやりました。ただし、乳母さまでは男は新生児でしたし、今回は瀕死でしたけども(笑)

・第五話

「オルセードにとっては、無期懲役だね」の台詞が、後になって生きてくるとは……

キキョウの名前は、最初はアカネにしていました(シオンと秋つながり)。でも投稿直前に、いや待て、ハルウェルは赤毛だぞ? ハルウェルにひどいこと言われてるシオンが、同じ赤系統の名前をメイドさんにつけるか? と思い直して、シオンと同じ紫色のキキョウにしました。夫と子供あり。彼女にもちょっと重めの過去を用意してたんですが、これ以上重くするのもどうよと、さすがに書きませんでした(汗)

あああ、しまった! 途中まで、シオンの口癖に「そういうのはいらない」を設定していたのに、後半すっかり忘れてた……

・第六話

ラーラシア登場。オルセードが英雄になるまでは、ラーラシアは本当に彼の単なる女友達でした。レビアナとも知り合いだし、オルセードの屋敷の人間たちももちろん普通に招き入れます。しかし彼女の心中は……

ラーラシアがシオンに敵意を持たなければ、いい友達になってくれたかもしれないですね。

・第七話

オルセードが騎士団長を辞めた、という情報。シオンに償うために、地位を、大きな物を捨てたオルセード。それでもまだ彼はたくさんのものを持っていて、その全てを注いでシオンに償おうとしますが……

・第八話

この辺から、シオンとオルセードはそこそこまあまあな関係というか、だんだん顔を合わせて会話できる程度にはなってきています。もう1エピソード、二人でお茶をする場面を入れようかなと思ったけど、やっぱり物語全体を短くまとめることにしたのでカット。

シオンがレビアナのためを思って自分に会いに来たことに気づいたオルセード、表情が柔らかいものに変わります。「シオン……優しくて強くて最高……」とか感じてるはずです。ま、あとで腕輪の件で揉めるんだけど(←鬼)

・第九話

レビアナ、ラーラシアに色々と吹き込まれて抜き打ち夕食会にした節はありますし、多少はシオンを値踏みする気持ちもあったと思いますが、基本的に「オルセードの選んだ女性なら応援したい」という立場。お母さんが出て行ったことで傷ついたオルセードの、子供時代から今までを知っている人なので……

まあでも、例えばシオンが、オルセードが自分に償うのをいいことに大きな顔して振る舞ってたら、心証が悪くなってどうなったかわかりませんね。

レビアナに事実を話していたら、きっとレビアナが男性陣を叱ったでしょう。でもその要素は入れたくなくて……。レビアナに叱られて男性陣が反省してシオンが溜飲を下げ、レビアナの力添えもあってチェディスでのシオンの居場所が保証されていく……とかは、ちょっと書きたくない(汗) この国でシオンが居場所を得てしまうとどうなるかは、考えていけば別の話ができあがったかも。でも今回は他には漏らさず、ひたすら三人の中で感情を凝縮させたいという作者のわがままということで。

はっきりとは書かなかったんですが、「シオンは周りの人に事情を話す気がない、他の誰にも心配をかけるつもりがない」というのが、ひとつ前の第八話の時点で自然とシオンとオルセードの共通理解になっています。

・第十話

ドレスを着たシオンを見てオルセードが小さく息を漏らしたのは、見とれたからですよ奥さん!(←誰) シオンは誤解してますけど!

イーラム君登場。オルセード、かなり嫉妬します。ごたごたぐちゃぐちゃした関係ではない、まっさらなところからシオンと仲良くなれるイーラム君のこと、すごくうらやましかったのです。

・第十一話

レビアナの屋敷の夜。シオンが「ここから逃げ出せば、何かがいい方に変わるんじゃないか」と妄想。心象風景として書いたエピソードでしたが、よく考えると最後の「海外脱出」への伏線になっているので、そういうことにしておきます。ここは伏線のつもりで書いたの(しれっ)

ハルウェルとレビアナの会話を立ち聞きするシオン。ハルウェルのお父さんの不倫相手が私に似てでもいたのかな、と想像する彼女ですが、それはある意味当たっていました。

オルセードのお父さん・セヴィアスが、海外にいるという伏線。第八話でも少し触れました。召喚された後ずっとチェディスしか知らなかったシオンにとって、海の向こうに別の国があり、そこと国交があるという知識は、この後大きな意味を持ってきます。

・第十二話

夏になり、イーラム君とおしゃべり友達になるシオン。人が人を裁くことの意味について、持論を展開するイーラム君。「何か決着をつけないと、先に進めない」。そして二十歳になったシオンは、屋敷の外に出始めますが……

オルセードが盛大に誤解するの巻。

・第十三話

オルセードの誤解が解けるのと同時に、シオンはオルセードが隠し事をしようとしたのを許さず、彼に白状させます。彼がシオンを好きになったことを。

あー、腕輪の件でこんなゴタゴタしてなければ、オルセードは誤解が解けた後できっとシオンの成人をお祝いしたんでしょうけどね。というわけで、それは後日談でやります。

・第十四話

これまで色々、人を憎むのはしんどいとか、同じ屋敷に住んで思い知らせるのはやめて魔石持って出て行こうかなとか、揺れ続けていたシオン。が、オルセードが行方不明になった事件をきっかけに「離れるのは無理だ」と悟ります。ここから彼女は、これから自分がどうするか、ではなく、自分とオルセード二人がどうすればいいか、に考え方をシフト。

・第十五話

ハルウェルの過去を聞いたシオン、ハルウェルが彼の両親と違って「結果」を背負っていないことを突きつけます。シオンがここで勢いづいて残酷にならなかったのは、すぐそばに温かいキキョウがいたから。一緒に来てくれて良かったね。

シオンの心の中で、「もう許してやれば?」「許さなかったら私が悪者になるの?」という会話が交わされます。ここ、一番書きたかったエピソードかも。最初は他の誰かがシオンに「許してやれば?」って言う風にしようかと思ったんですが、それだと誰かに打ち明けねばならないので、「高校生の頃のシオン」にしました。

ヒロインにはヒーローを許すことはできないだろう……と最初に考えたとき、思い浮かんだのは、どこかで読んだイジメの記事でした。イジメが発覚すると、誰かが取り持って被害者と加害者が一堂に会し、加害者は被害者に謝る。被害者にとっては一生の心の傷なのに、加害者が謝ったことでチャラにしなくちゃいけない。ずっと恨んでいると「謝ったんだから許してあげれば?」と周囲に言われ、罪悪感を感じてまるで今度は自分が加害者のように感じてしまう……というような内容だったと思います。

加害者が家族であるパターンもありますよね。謝罪されても、もしかしたらまた同じ事が起こるかもしれない。特に大人はすでに人格ができあがってますから、いじめ(もしくはDV)に本人なりの理由があったならなおさら、同じ状況になればまたやるかもしれない。被害者はそういう気持ちをずっと抱えたまま、加害者とつきあっていく。すっぱり関係を断ち切れればいいですけど、そうできない場合は? それでも許さなきゃだめ? 許さなかったら不幸になる?

その辺をぐるぐる考えて、後半のプロットを練ったような気がします。

シオンはラーラシアの話を聞き、ついにオルセードと自分の未来を決めます。

・第十六話

シオン、オルセードをがっちり「縛り」、そしてハルウェルから引き離して連れて行きます。許さないまま救い、許さないまま愛する、それがシオンの出した「判決」でした。第五話で出た「無期懲役」という単語、それも合ってる感じですよね。


●完結後

感想欄、そして拍手コメント欄が、たくさんの声で溢れて感動しました。自作について読者さんと語り合ってるみたいで楽しくて、この後の後日談を書くにあたって二度、三度と読み返しました。自分でもうまく脳内でまとめ切れていなかった部分が、読者さんの言葉でまとまってくることもあるんです。今回これがなかったら後日談は書けなかったと思います。

ありがとうございました!

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