生徒だったんですか!?
「木村先生、今少しお時間いいですか?」
「ん、高橋だったか? 何か用か?」
入学式のある今日は半日で終わった。そのため現在は放課後で聞きたいことがあったので職員室に戻ろうとしていた担任の木村剛を呼び止めた。
「木船荘について聞きたいことがあるんですけど」
そういうと木村の顔が困ったように眉を曲げた。
「あー、すまんな。木船荘については俺は詳しくなくてな。木船荘は全権を東雲理事長が有しているんだ。管理もすべて一人でされててな。だからおそらく質問されてもそれには答えられない」
「そうですか……」
「うん、今日は入学式で丁度東雲理事長も学校に来ているしな。直接聞いてみたらどうだ?」
「いいんですか?」
「あぁ、理事長室まで案内しよう」
「ありがとうございます」
さすがに入学式初日から理事長室の場所は知らないし、知っていたとしても理事長室という普段生徒が立ち寄らない場所というのは一人では抵抗感があった。なんとなく行き辛い職員室以上に。
「高橋は木船荘だったな。まぁお前の家庭事情は色々聞いてはいるが、どうだ? 木船荘でやっていけそうか?」
理事長室に行くまでのつなぎとしてか木村が将太に話しかける。
将太の担任として将太の事情については私生活等も含め幸子たち施設の職員から聞き及んでいた。
「そうですね。問題はないと思います」
「実際に木船荘を見に行ったことはないが噂じゃ大分古びているとか」
「あはは……。確かにかなりひどい見た目はしていましたけど、建物のつくり自体はしっかりしていましたよ。少し掃除すれば問題なく住むことができると思います」
「そうか。何か心配事があれば何でも相談してくれよ?」
木村が将太の事を本当に心配してくれていることは理解している。
だから将太も木村のことを信頼を寄せることができた。
いい担任を持つことができてこれからの学校生活の安泰というものだろう。
木船荘の話だけでなく今後の学校のことなどについて話していると対面から一人の女子生徒がやってきた。
背筋を伸ばして楚々と歩く姿は優等生のそれ。
整った容姿と柔らかい微笑みも合わさってすれ違う生徒たちは二度見三度身と視線を集めている。
その女子生徒、凪沙と将太の視線が合う。
凪沙は驚いたように目を見開き足を止め、将太はそんな凪沙の様子に首を傾げた。
(何を驚いているんだ?)
もしかして先生に連れられて歩いているのを補導されているのかと勘違いしたのか。
入学式初日に何したの!? ということだろうか、と。
「あ、あの……高橋、さん?」
「どうした朝倉。顔に何かついてるかな?」
足を止めた凪沙と向き合うように立った将太と同じように首をかしげる凪沙。
はらりと黒髪が躍る。
「た、高橋さん東雲生だったのですか……?」
「知らなかったのか? 朝倉と同じ新入生だけど」
「……てっきり木船荘の寮監なのかと」
「俺そんなに老けてるか?」
「あぁ……、確か朝倉だったな。そういやお前も木船荘の住人だったな。なんだ、朝倉は高橋のこと寮監と勘違いしていたのか」
勘違いしていたことを面白そうに笑う木村に羞恥から顔を赤らめてしまう。意味もなく両手をぱたぱた、視線も将太を見たり逸らしたりと忙しそうだ。
「だ、だって高橋さんすっごくスムーズに案内してくれて。てっきり寮監だと思うのも仕方ないじゃないですか!」
「いや、俺も寮監がいなかったから先に来た俺が案内しないとと思っててさ。あー、勘違いさせて悪かった」
あまりにも恥ずかしそうにあわあわするのでつい救いの手を差し伸べてしまう。
申し訳なさそうに謝る将太に我に返ったのか。未だに頬は赤いものの自分の非をなすりつけるような失礼な言動に気づきさっと頭を下げた。
「い、いえ。私が勝手に勘違いしていただけですから高橋さんが謝る必要はありません。寧ろその、高橋さんが悪いように言ってしまってすみませんでした」
「あぁ、いや、大丈夫だ。俺が勘違いさせてしまう言動をとったのは確かだし。まぁあれだ。お互いさまってことで」
「ふふ、ならそういうことで」
お互い納得のいく形に収め、ついでにこの後用事もないということなので木船荘の住人である凪沙も一緒に理事長室へ向かうことにした。




