恐怖の終わり
三話連投二話目です
速攻で明かりをつけるが、わずかに照らされるだけで闇はあちこちに残り余計に恐怖心をあおられた様な気がする。
「……行くか」
将太は気を引き締め二階へ続く階段を上った。
ギィッといった家鳴りに鴬張りのようにギシギシ軋む床。
中庭の草木を風が揺らし擦れる音。
隣近所から聞こえる笑い声や喧嘩する声。
外を走る自動車の排気音。
普段絶えず聞こえているはずの日常の音がただ怖い。
壁に手を添えながら階段を登り切れば正面に現れた闇を背負う人の顔。
「ッッ!?!!?」
危うく階段から転げ落ちそうになったところで窓ガラスに反射した自分の顔だと気づく。
「っ、っ。怖ぃ……」
漏れる弱音も尻すぼみだ。
凪沙の部屋は二〇三号室。よりにもよって廊下の一番奥の部屋である。
たった三部屋の距離だというのに廊下が無限に続いているかのような幻覚を見てしまう。
「朝倉……、寝てるのか?」
コンコン、コンコン。
呼びかけにも四度のノックにも反応はない。寝てるような気配もない。
風呂から上がれば凪沙はおらず、尚且つ居間の明かりは消えていた。
だというのに部屋にもいない凪沙は何処へ。
パチッ!
「!?!?!?!?!」
まるで小枝を折ったような小さな音。
その小さな音に将太は過剰に怯える。
「そんな、映画じゃあるまいし……」
明かりが消え仲間が消えていく。
つい先ほど見たホラー映画での出来事だ。
凪沙がそのシーンの出来に興奮していたのを思い出す。
二階の廊下で均等に並ぶ窓ガラス。特にカーテン等の遮蔽物はなく窓ガラスの奥の夜に反射する自分の姿がよく見えた。
じっと自分の目を見据えるガラスに映る自分。
頬を引き攣らせ眉の下がった怯えた表情。
その自分がニタッと嗤ったような気がして。
「んんんっ」
将太は階段を駆け下りる。
明るい居間にいよう。テレビをつけて明るい音を流そう。ソファーに座って膝を抱えて。明るくなる時を迎えよう。
その一心で一階に下りた将太。玄関を通り過ぎるその時。
ガラララララッ!
「ズッッッ!?!?!」
「あ、高橋さんお風呂あがったんですね。アイス食べません?」
玄関を開けてコンビニ袋を掲げた凪沙が現れた。
将太はそんな凪沙の様子に力が抜けてへたり込む。
「た、高橋さん!? 大丈夫ですか!?」
突如崩れ落ちた将太に凪沙が手を伸ばし、将太は無意識にその手をつかむ。
「ど、どうかしました? やはり具合が悪いのでしょうか……」
「あ、朝倉……」
「……はい」
「……どこ行ってたんだよぉ」
「あれ、高橋さん……もしかして泣いてます?」
将太は答えない。答えず凪沙の手をぎゅっと握りしめる。
「えっとぉ。ちょっとアイスが食べたくなりまして近くのコンビニに行ってたんですけど……」
「……なんで、勝手に行ったんだよぉ」
「あ、そういえば書置きも何もしてなかったですね。ごめんなさい」
「……急にいなくなるから、心配したんだぞ」
「えへへ、すみません」
凪沙はなされるがまま。手を握られたままへたり込み俯く将太の言葉に答える。
こんな将太を見るのは初めてだった。訳も分からず、だけどそうしていたほうがいいのだろうと将太の手を握り返す。
ただ傍にいてくれる凪沙に将太はグズッと鼻を鳴らした。




