学校での彼女
昼食後、しばらく談笑してから二人は帰っていった。
朱里はちょっとした忠告をして、由紀は又来ると言い残して。
残る二人は今のソファーで先ほどまでの余韻に浸っていた。
「楽しかったですねぇ」
「こういうのもいいな」
普段ののんびりした時間も心地よいが、人数が増えて騒がしいひと時もまたいいものだと感じた。
「それにしても、本当にいい友達を持ったなぁ」
帰り際の朱里の忠告。
『最後に! 木船荘で凪沙と生活していることは誰にも言わないこと! 変な噂されて凪沙にも迷惑が掛かったら許さないから』
高校生なんてものはそういった男女間の噂話というものに敏感だ。
同じ学年の兄妹でもない男女が一つ屋根の下同棲しているなんて格好の餌食となるだろう。
そうなればこれからの学校生活、どうなっていくかは目に見えている。
だからこその朱里の言葉だ。
どこまでも凪沙のことを心配してのことだった。
正直将太はそこまでこの現状を難しく考えていなかった。
今まではまだ話題に上ることがなかったため口にしてはいなかったが、聞かれていれば素直に話してしまっていただろう。
しかし朱里に言われてその考えは一変した。
その対象が将太だけならば気にすることはなかったが、自分の周りや凪沙を巻き込むなら別だ。
彼女がこれまで築き上げてきたものを崩すことになるのだから。
もしそんなことになったなら、将太はきっと自身を許せないだろう。
朱里のおかげで気づくことができた。
ほのぼのとした二人の生活が、とても脆い基盤の上に成り立っているのだと。
将太の日常はその程度のものなのだと。
一学期も半ばを過ぎたころ。
中間テストも終わって近づく梅雨の湿り気と夏を想わせる暑さを感じてきていた。
「お、朝倉さんじゃん」
「相変わらずの美少女だよなぁ!」
「勉強もできて運動も得意ってすごい完璧だよね」
入学式からよくつるんでいる健司、明、俊之介の三人組と次の授業のために移動していると同じく廊下を歩いていた凪沙を発見する。
ほかの三人も凪沙に気づき、どこか眩しいものを見るように目を眇める。
「そんなに凄いんだ」
将太としては学校での彼女のことはよく知らず、知っているのは木船荘での残念さをよく見せるだらけた彼女の姿。
だから三人の反応に少しの違和感を感じていた。
「俊も言ってたけど朝倉さん勉強もできるじゃん? 確か中間テスト順位一桁だったよな」
「そうそう。さらに陸上部では期待のエース! 走るだけじゃなくてほかの運動でもなかなかすごいらしいぜー? 朝倉と同じクラスの奴が言ってた」
「へー」
二人の言う通り凪沙は勉強もスポーツも平均以上に熟してしまう。
それ故に将太たちの学年だけに留まらず上級生にまで噂されている。
品行方正眉目秀麗文武両道。
教員たちからも好かれまさに完璧な美少女。
すでに何度も告白を受けているという噂も健司たちはよく耳にしていた。
しかしそのことを知らず、加えて常日頃から共に過ごしていることもあって将太の口からは気のない相槌が漏れてしまった。三人はそれを聞いて揶揄うように言う。
「あんま興味なさそうだな」
「まぁその朝倉さんよりも勉強できる高橋君だもんねぇ」
「流石特待生!」
「あはは……」
実は将太、東雲高に特待生枠として入学しているのだ。
将太は中学では三年間主席の学力を誇り、特待生選抜試験であっさりと枠を確保するぐらいに。
このおかげで三年間の学費、入学金から授業料、設備費などが全額免除され懐具合の寂しい将太はこの高校に通うことができているのだ。
今回のテストでもその学力が惜しみなく発揮されたことで学年主席の地位を得ている。
ただ普段から物静かで目立たない将太だからあまり注目はされていないが。
しかしこの三人のように親しい者たちからは度々揶揄われることがあった。
普段がのんびりおっとりしているためそう見えないからだろうか。
凪沙に朱里、由紀の三人もこの結果にはなかなか驚いていた。
その三人の中でも勉強が不出来な朱里に至ってはかなり鋭い目で睨みつけられたりもしていた。
話題の内容からあの目つきを思い出してしまい、頬を引き攣らせながら話題の矛先を変えていくのだった。




