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木船荘へ

 ずんずんと進んで談笑する将太と凪沙の間に入って遮る朱里。


「とにかく! 男と二人で一緒に住むなんて危険よ!」

「そう言われましても……」


 朱里が凪沙のことを心配して言ってくれているのは凪沙も理解している。しかしこればかりはどうしようもない。


「だったら見てみれば?」


 このままでは平行線の話に由紀が提案する。


「木船荘。実際に二人が暮らしているところを見てみればいい」

「もしかして面白がってない?」


 どこか楽しそうな由紀の表情に気づいた将太が呆れ交じりに言えば由紀はふいと顔を逸らす。


「そんなことはない」


 本人はそう否定しているが僅かに肩が震えているのを将太は見逃さなかった。楽しそうな由紀の様子に害もないからと追及もしなかったが。


「そうね。実際に見たほうが早いわ」


 彼女たちはまだ部活中だということで将太はグラウンドの見える校舎の廊下で待機する。

 グラウンドでは陸上部が旺盛に練習をしている光景が良く見えた。

 その中で先ほどの三人も真面目に練習をこなしていた。


 由紀はグラウンドの端にある走り幅跳びの練習をしているようで走ってはぴょんぴょん結構な距離を飛んでいた。

 朱里は走り高跳びの選手のようで中央部に敷かれたマットに飛び込んでいる。

 

 三人の頑張ってる姿を見て将太は眩しそうに眼を眇める。

 将太はこういった何かに夢中になる人や頑張っている姿を見るといつも思うことがある。


(俺にはなにも、ないなぁ……)


 これと言って趣味があるわけでもなく特技と言えるようなものもなくて。

 だからこそグラウンドで汗を流し努力を実らせんとする人の姿を眩しく思ってしまう。


 それが羨ましくて、でもどうにもならなくて。


 自嘲気味に苦笑をこぼすのだった。


 昼を過ぎたころに陸上部の練習は終わった。

 部室棟にあるシャワーで汗を流しさっぱりしてきた三人を迎えた将太は木船荘への帰路に就く。


 二〇分ほどの道のりは女子三人の姦しさで普段より賑やかだった。


「着きました。ここが木船荘ですよ」

「……思ってたより綺麗ね」

「噂とは違う」


 すこし自慢げに木船荘を紹介する凪沙。朱里と由紀は感心するように木船荘を見上げている。


「何もお構いできないけど、まぁ入ってくれ」

「お邪魔します」

「します」


 将太も二人を木船荘に迎え入れる。


「中も綺麗に掃除されてるのね」

「高橋さんがいつも掃除を頑張ってくれているので」

「やるじゃん高橋」


 まずは二人を居間へと案内してソファーに座らせて将太はお茶の準備をする。

 慣れた手つきでおもてなしをする将太に二人の観察するような視線が向けられていた。

 なんだかじっと見られて落ち着かない。


「あー、ただのお茶だけど」

「どうも、お構いなく」

「ん、冷たくておいしい」


 朱里は素っ気なくお茶を受け取り由紀は冷たさにほっと息をつく。


「それでどうしましょう?」


 この二人が木船荘を訪れたのは木船荘を通して二人が、主に将太がどんな生活をしているかを見定めるためだ。

 とはいってもどうすればいいのかわからず凪沙は首を傾げる。


「そうね……。人間性が現れるのはやっぱり自室でしょう。高橋君の部屋を見せてもらいましょう」

「部屋か。こっちだ」


 朱里に部屋を見せろと言われた将太は何のためらいもなく部屋への案内を始める。

 普通なら突然のことに抵抗したりとするものだがそんなものは一切ない。


「……やましいものはないって言いたいのね」


 将太としてはそこまで考えておらず、ただ求められたとおりに行動しているだけだ。


 二人とついでに将太の部屋に興味のある凪沙もつれて一階一〇一号室へとたどり着いた。


「どうぞ」

「お、お邪魔します」


 いざ目の前にして朱里は少し躊躇していた。

 ここが学校の寮だとしても男の部屋である。そんなところに立ち入るのは初めてだった。この扉の先にあるのが全くの未知の領域で扉を開けようとする手もおずおずとしている。


 ぎぃ……っと立て付けの悪さを伺える音をたてながら開かれた先。そこにあるのは何の変哲もない部屋だ。


「早く入る」

「ちょっと!?」


 僅かに開かれた隙間から中を覗き込んでいた朱里に痺れを切らした由紀が朱里を押し入る。

 たたらを踏みつつ部屋へと入ってしまった。


「高橋さんの部屋、というより一階は畳なんですね」

「あぁ。一階は全室畳だった」


 二階は全室フローリングになっているため畳であることに興味を示す。

 そんな凪沙を置いて残りの二人は何とも言えぬ違和感に室内を見渡していた。


「何か、変ね」

「うん。何か違和感がある」

「違和感ですか?」


 三人で部屋をぐるぐる見渡す。

 主である将太は廊下でその様子を苦笑しながら眺めていた。


 暫くして何かに気づいた由紀がポンと手を打ち鳴らす。


「わかった。私物がない」

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