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やさしい人

 春の陽気は眠気との相性が抜群だ。

 故にこうなってしまうのも致し方ないといえた。


「高橋さぁん……。眠いです」


 覚醒したとはいえ寝起きの凪沙だ。陽気にやられ追いやったはずの眠気が再び凪沙に襲い掛かる。

 ふらふらと左右に揺れて歩みも普段よりゆったりと。


 時間がゆっくりと流れるかのようなこの季節に凪沙の動きもつられてしまっている。


「ほら、しっかり歩け―」


 凪沙の肩をぽんぽん触れて将太は励ます。今回の目的地である近所の公園はもう目と鼻の距離だ。


 小さくもなく大きくもなく。中規模の公園にたどり着いて二人並んでベンチに座る。


「日差しが心地いいなぁ」


 部屋の中にいてもその心地よさにやられそうだったのだ。

 木漏れ日と緩やかな風。葉擦れの音と鳥の声。たまに聞こえる生活音や車の走る音に心が穏やかになっていく。


「そーですねぇー……」


 凪沙はすでに半分夢の世界に旅立っていた。

 目はうっすらとしか開いておらず体はこっくりこっくりと舟を漕ぎだす。


「眠そうだな」

「そーですねぇー……」


 もはや話も聞いていない。


 うっすらと開かれた視界の中。呆れたような優しい表情を浮かべる将太の顔を最後に凪沙の意識は眠りへと落ちていった。


 ふと目が覚める。少し離れた場所で聞こえてくる子供たちの楽し気な声に凪沙の意識は覚醒した。


「……あれ、私寝ちゃってましたか…………」


 寝ぼけ眼をこすりながら隣を見るがそこに将太の姿はなく。


「……何しているんですか高橋さん」


 子供たちのほうを見れば一緒になって遊んでいる将太の姿があった。


「ほれほれ。ボールはこっちだぞ?」

「くっそー! 将太にぃ上手すぎるだろ!」


 器用に足でサッカーボールを操って小さな男の子たちを翻弄する将太。その様子はとても楽しそうで男の子たちも必死ながらも嬉しそうにボールを追いかけている。


「ほら壮太、パス!」

「わわっ」


 逃げる将太とボールを追いかける一団に追いていかれていた一人の少年に将太がパスを回す。そうすれば追いかけていた少年は壮太と呼ばれた少年に群がり壮太もその輪に加わることができていた。


「よっしゃ! とった!」

「待てー!」


 ボールの持ち手は次々変わっていき、そのたびに追いかけっこはあっちへこっちへ行ったり来たり。

 少年たちの群れから離れた将太は次は少女の群れに囲まれていた。


「お兄さん花かんむりの作り方おしえて!」

「あぁ。あっちに蓮華が咲いてたからそっちで作ろうか」


 さりげなく輪に入れない子を仲間に入れてあげていたり走り回る少年たちから少女たちを離して安全を確保していたり。

 そのうまいやり方に将太が兄弟持ちであることを思い出す。


「お兄ちゃんですねぇ」


 小さな子たちの扱いに慣れていることが十分にわかる光景だった。

 しかしどうすればこの短時間であれだけの子供たちに好かれるのか。


 スマフォを開いてみれば凪沙が寝てしまってからまだ一時間も経っていなかった。


 たったそれだけの時間でここまで好かれるのは彼が発している雰囲気のおかげか。

 凪沙もどうしてか将太のそばでは気が抜けてしまう。


「お兄ちゃんみたいだったりお父さんみたいだったり。おじいちゃんみたいな時もありますよね」


 同い年だというのに将太はとても落ち着いて大人びている。

 だからついつい甘えてしまう。


 うんしょとベンチから立ち上がった凪沙は少女に囲まれる将太のもとへ向かう。


「高橋さん、私も混ぜてくれませんか?」

「あぁ、いいぞ」


 なんにせよ。

 将太はとてもやさしい人だということを再確認する。


 そして子供たちの無限とも呼べるような体力の前に現役陸上部員である凪沙が敗北するまでそう時間はかからなかった。

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