綺麗な黒髪
翌日、いつも通り五時前に目覚めた将太。
普段通りに朝食の用意をしていれば陽も登り丁度良い時間になってくる。
用意した朝食を前にしばらく凪沙が起きてくるのを待ってみるが二階で動く気配は全くない。事前に日曜日は起こさなくてもいい旨を聞いていたため今日は起こさない。
なので広い居間の中一人で朝食を食べていく。
「…………」
複数人が共同生活をすることを前提に作られている木船荘だ。相応に部屋は広く、だから一人で食事をしていると寂寥感が将太の内に募っていく。
以前は騒がしいほどに兄妹たちに囲まれての生活だったためそんなことを思うこともなかった。こちらに越してきてからもいつも凪沙と一緒だったのと毎回美味しいと嬉しそうに食べてくれる様子のおかげで、たとえ二人だけの食事であっても寂しいという感情すらわかなかった。
だから一人での食事は久しぶりで、余計に寂しく感じてしまう。
食事を終えて後片付けが済んでも凪沙が起きてくることはなかった。
今日は休日。特に予定もないので時間もあまり余っている。なので放課後等に徐々に進めていた外観の手入れ進めていくことにする。
前庭の草むしりは半分ほど済んでいるため今日は残りの半分と建物正面に這った蔦を排除していく。
将太はこういった作業が好きで施設にいたころもよくしているためお手の物である。
休日の過ごし方といえば子供の世話、家事、そして草抜きと言っていいほど。
無心で作業を続ければあっという間に時間は過ぎていきもう昼前だ。
ひと段落ついて居間のソファーで寛いでいるとようやく凪沙が降りてくる。
「……ぉぁぉぅござぃます…………」
ほとんど出ていない声で挨拶する凪沙の目はほとんど開いていない。
「おはよう。って言ってももう昼だからおそようだな」
「…………ぉそょぅござぃます…………」
「だめか」
ふらふらとふらつきながらテーブルに向かおうとして、グラつき方向転換。傍にあるソファーに着地した。
そのまま傍にあったクッションを手繰り寄せると抱きしめ寝息を立て始めてしまう。
微笑ましい場面なのだろうが髪はぼさぼさで爆発し、口端にはよだれの跡。目尻には目脂がついていて正直汚い。
思わず苦笑して人肌まで温めたぬるま湯に浸けたタオルで顔を拭ってやる。
「……むぐぐぐぐぅ」
抵抗することなく顔を拭われる凪沙は僅かに顔をしかめただけ。
続いて爆発した髪だ。
蒸しタオルや霧吹き、櫛やブラシを活用してあっちこっちに飛び跳ねた寝癖を直していく。
優しい手つきで触れる将太の手が心地いいのか。凪沙の寝顔は穏やかだ。
「まったく……」
気持ちよさそうな寝顔を見れば文句の一つも出てこなくてくすりと笑みをこぼした。
ある程度整え終え手櫛で髪を梳いていく。
凪沙の髪は細くサラサラしていた。触り心地が良くて寝癖を直し終えても将太はついそのまま髪を弄ってしまう。
これも世話焼きの対価だと言い訳して、凪沙の艶やかで綺麗な黒髪を堪能する将太だった。




