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彼女の一面

「もしかして朝倉って料理できない?」

「っ……」


 夕飯時、将太が煮魚をつつきながら何気なく聞くとびくりと体を震わせてすごい勢いでそっぽを向いてしまう。


「で、できますよ? お母さんに習ってましたし?」


 語尾が若干上ずってしまっていて明らかに嘘をついているのがわかる。


「……明日の朝食任せてもいい?」

「っっ!? もも、もちろんですとも?」

「…………ごめん。意地悪しすぎたな。素直に言っても責めないから」


 優しい目で見られたからか泳がせていた視線が申し訳なさそうに将太を捉えた。


「……すみません。真面に料理したことありません」

「まぁ食器の洗い方からなんとなくわかってたよ」


 揶揄われたことに気づき、凪沙の頬がぷくっと膨れ淡く染まる。

 眉が寄って明らかに「私怒ってます!」といった表情になっているが正直全く威圧感はない。寧ろかわいいと思われてしまうだろう。


 将太もその表情にほっこりしてしまう。


「どうせ食器もまともに洗えませんよっ」

「ははは、薄々分かってはいたけど朝倉って意外とポンコツだな」

「うぅっ。バレないように気を付けてはいたのに……」

「学校ではすごい真面だよな」


 まだ東雲高に入学したばかりだというのに凪沙のことはふらっと噂に聞く。

 そのどれもが好意的なものばかりだ。よく人に囲まれている光景も目にする。


「私、運動は得意なのですがその他が酷くって……。どうにか学校ではぼろを出さずに済んでいますがどうにも家では気が抜けてしまってやらかしてしまうんです」

「んー、別に無理して偽らなくてもいいんじゃないか?」

「……そうなんですけどね」


 影を落とし何やら意味深にうつむいた凪沙。何か深いわけがあったのではないかと将太も気を引き締めた。


「その……。自分で言うのもなんですけど私見た目は整ってるほうじゃないですか」

「ん。まぁそうだな」


 はっきり言えば一〇人中一〇人は綺麗や可愛いといった感想を持つぐらいに整った容姿をしている。それは将太もよく分かっていた。凪沙も滅多に口に出さないが人より容姿が整っていることを自認している。


「だからその。私なら何でもできるだろうと周りの人が過度に期待を持ってしまって。昔からそうだったのでつい見栄を張る癖がついちゃったんです」


 と、あっさり語られた内容は先ほどの陰った表情はどうしたのかというほど浅いもので。


「……」


 ついつい呆れたものを見るような眼を向けてしまうのも仕方ないだろう。


「そ、そんな目で見なくてもいいじゃないですかー!」

「いや、あんな顔するからもっと深い理由があるんだろうなって身構えてたらとんだ肩透かしを食らわせてくるからだろ」


 確かに周りに期待されるのは度を過ぎれば辛いものがあるだろう。だが見栄を張ってしまったのは凪沙が悪い。


「私にとっては深い理由なんですよ!」


 眉をキュッと寄せて睨んで来る凪沙だが、やはりどうしても凄味に欠ける。


「ま、感じ方は人それぞれだしね。でもいいのか?」

「何がですか?」

「俺に対していろいろぼろ出してること」


 凪沙が言うには今まで残念な部分を隠し続けていたということだが、すっかり将太にはばれてしまっている。


「………………」


 凪沙は将太の言葉にしばし動きを止めてしまう。

 ゆっくりとその言葉の意味を理解してわなわなと震えてしまった。


「み、見なかったことに……」


 そっと差し出されたのは偉人の描かれた特殊な和紙。最高額の日本銀行券だ。

 躊躇いなくお金を差し出したことに将太は頬を引き攣らせる。


 とりあえず一万円札はお引き取り願って凪沙を安心させるように笑みを浮かべた。


「な、何か言ってくださいよ!」


 肯定も頷きもしなかったけど。

 ただ笑みを浮かべるだけの将太に思わず声を上げる凪沙だった。

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