第六話
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二学期に入り、学校は体育祭モード一色になる。
八月が終わり、萌の体調も万全だ。
「萌、一緒に借り物競争に出ない?」
星華が誘ってくれて、萌は借り物競争に出ることになった。
足が速い潤と春希は二百メートルリレーと男女混合リレーに出るらしい。
早速放課後に練習するらしく、二人はクラスでも目立つ子たちに囲まれながら教室を出ていった。
借り物競争は当日にならないとお題が分からないから準備のしようがなく、バイトもあるため、萌はすぐに帰路につく。
バイト終わり、萌が何気なく体育祭のことを話すと、マスターが見に行きたいと言い出した。
「え、でも見ても面白くないと思いますよ。全然知らない人たちが走ったり踊ったりするだけで」
萌がそう言うが、マスターはすっかり行く気だ。
「俺は萌ちゃんを見に行くの! 萌ちゃんはもう俺の妹みたいなもんだし。その日は俺が弁当作って持ってってあげるよ」
ニカッと笑顔で言われて萌は視線をさまよわせる。
なんだかんだ言いながら、本心では誰かが見に来てくれることが嬉しいのだ。
「ありがとうございます。あの、楽しみにしてます」
照れながらお礼を言う。
あのバーベキューの日以来、萌はひとに甘えることを覚えた。
遠慮せず、萌が素直に好意を受け取ったことに軽く驚くマスター。
人に頼ることを良しとしなかった萌を歯がゆく思っていたため、その変化に驚いたが、それ以上に喜ばしいと感じた。
良い傾向だと一人微笑んだ。
バイトが終わって施設に戻り夕食を食べると、あとはひたすら勉強するのが萌の日常だ。
体育祭が終わればまたすぐに中間テストがやってくる。
気を抜いている暇はない。
萌がいる施設は、高校生が三人、中学生が四人、小学生が八人、幼稚園生が六人の大所帯だ。
いつも騒がしく、お風呂の時間も決められていたりして、リラックスできるような環境ではないが、何年もその状況で過ごしてきた萌はもう慣れた。
今では同じ部屋で誰かが泣こうがわめこうが勉強に集中できる。
授業の予習復習を終え、少しだけ本を読んだらあっという間に一時だ。
他の子たちはもうすっかり寝静まっている。
明日も五時起きの萌はようやく布団に入った。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
いつもは土曜日に雅也と打ち合わせをする萌だが、今日は学校帰りの放課後に、マスターの喫茶店で落ち合った。
今週の土曜日は体育祭だからだ。
仕事の話がひと段落したところで、学校生活の話題になり、萌は体育祭のことを話す。
「そっか、そろそろそんな時期かー。萌ちゃんは何の競技に出るの?」
「借り物競走。友達に誘われて!」
はにかみながら話す萌。
バーベキューで泣いてしまって以来、萌は雅也に対して少しだけ甘えるようになった。
と言っても、仕事じゃない時にデスマス口調を止めたりといった可愛いものだが。
「そういえば、体育祭をテーマに短編を募集しようかっていう話も出てるんだ。俺もリサーチがてら萌の体育祭見に行こうかな」
雅也のセリフにぎょっとする。
マスターの時はただ嬉しい気持ちしかなかった萌だが、雅也が見に来るのは恥ずかしいと感じる。
でも、リサーチがてら来るという雅也を止めることもはばかられる。
仕事の邪魔はしたくない。
「あれ、萌、ちょっと顔赤くない? 俺に見に来られるの、恥ずかしい?」
からかうように言われて顔に熱が集中するのが分かる。
雅也さんは最近ちょっといじわるだ。
「別に恥ずかしくなんてないです! ぜひ見に来てください!」
恥ずかしがりながらも結局は来てもらえるのが嬉しい萌なのだった。
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