第四話
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中間テストは思っていたよりも難しくて、中学との違いを実感した。
なんとか総合四位になれて、萌はひとまずほっとする。
潤は一位だったらしく、すごいなと感心した。
充実した日々を過ごす萌だったが、うまくいかないこともあった。
ネットに投稿している作品の順位が三ランクも下がってしまったのだ。
テスト前になかなか投稿できなかったことが原因だろう。
「十分高評価なのでそんなに気にしなくていいと思いますよ」
雅也さんがそう言ってくれるが、萌はショックを隠せない。
「何度も言ってますが、まずは自分の生活を優先させることが一番です。萌さんは最近本当に楽しそうで、よく笑うようになり、安心しているんです。だから勉強や友達を疎かにしちゃだめですよ」
雅也の萌を心底心配している様子に、萌の動揺は少し落ち着いた。
良い人たちに巡り合えたことに萌は感謝する。
焦らず自分が出来る範囲で頑張ればいいと、素直に思うことができた。
あっという間に六月になり、期末テストは総合二位になることが出来た萌。
焦りがなくなったことで心に余裕が生まれ、色々なことがうまくいった。
――けれどそんな萌を気に入らない人もいるわけで。
潤や春希と仲良くし、成績もいい萌はクラスの女子から嫉まれていた。
新山明菜もそのうちの一人で。
「なんであんな奴が潤君と仲良くしてるわけ?あたしの方が潤君を好きなのに」
暗く沈んだ声で漏らした言葉を聞く者はいなかった。
様々な人物が様々な思いを抱く中、青藍高校は夏休みを迎えた。
――萌が大嫌いな夏がやってきた。
八月になると体調を崩す萌。
夏バテなんかじゃないことは本人が一番よくわかっている。
こういう時ほど慎重にならなければいけなかったのに、萌は油断していた。
だから星華たちに誘われるまま、プールへ行ってしまった。
――もう自分はトラウマを克服したから大丈夫だと信じて。
「萌、しっかりしろ!」
「大丈夫かっ!」
「萌っっ!」
三人が叫ぶ声がするが、よく聞こえない。
呼吸が苦しい。
うまく息を吸えない。
ああ、結局自分は人に迷惑をかけるしかできないのかと霞む意識で思う。
少しだけ意識を失っていたらしい。
気づくと萌はプールサイドに引き上げられ、ライフセーバーの人が背中を撫でて落ち着かせてくれていた。
「萌、大丈夫?」
潤や春希、星華が心配そうにのぞき込んでくる。
大丈夫だと言おうとしたけれど、声がのどに詰まって出てこない。
視線を落として初めて、萌は自分が震えていることに気が付いた。
大丈夫だと思っていた。
もう自分はトラウマを克服したと思っていた。
こんなに弱いなんて思っていなかった。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
八月に入り悪夢を見るようになり、寝付けない日々が続いた萌は少し疲れがたまっていたものの、星華たちとプールに行く日をワクワクしながら迎えた。
水着に着替えて、潤や春希、星華に可愛いと言ってもらえて嬉しかった。
プールに漂う水を見た時も、いざプールに入った時もなんともなかった。
――なんともなかったはずなのに――
大きな水しぶきが顔にかかった時、萌の心臓がぎゅっとなった。
恐怖に身体が硬直した。
目の前が真っ暗になって息の仕方が分からなくなった。
*~*~*~*~*~*~*~*~*
萌は震える身体を抱きしめた。
「ご、ごめんなさい。迷惑かけて」
かすれた声で何とか謝る。
「迷惑なんかじゃないっ」
三人が口々にそう言ってくれるが、萌の心はぐちゃぐちゃのままだ。
しばらく休むと萌の震えが少しずつ収まってくる。
「とりあえず、このままここにいるのもあれだし、着替えよう」
春希がそう言い、萌はなんとか立ち上がった。
「私、小学生の時半年間虐待されてたの」
着替え終わり、近くのファミレスで萌は三人に打ち明けた。
まだ青い顔のままの萌を心配そうに見守っていた三人は、語られた内容に驚いた。
「お風呂に沈められたりして、それ以来水が苦手になって――。
でも、病院で薬貰うようになってフラッシュバックもしなくなって、中学ではちゃんと水泳の授業にも出てたの。まさかこんな風になるなんて思わなくて。
迷惑かけて本当にごめんなさい」
「迷惑なんてそんなこと絶対にない。無事でよかった。
むしろ、こんな時だけど、俺たちに萌のこと話してくれて嬉しいって思うよ。それだけ俺らを信頼してくれてるってことだろ?」
星華と春希は話の内容に衝撃を受け、咄嗟に返事が出来なかったが、潤はすぐに答えた。
本心だとわかる潤のまっすぐな視線と誠実な声に、萌は少しだけ落ち着いた。
「そうよ。ありがとう、萌。私たちを信頼してくれて」
「ありがとな。俺たち親友だな」
優しい星華と春希の言葉。
「親友――嬉しいな」
弱弱しく微笑んだ。
この際だからと、萌は自分が小説をネットに投稿していることも打ち明ける。
三人もいろんな秘密を打ち明け合って、いつの間にか暴露大会のようになっていった。
あったかいココアと、あったかい友人たちのおかげで、萌の恐怖はいつの間にか薄れていった。
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