地球の変革
ようやく、長かった物語も大団円です。
次回が最終話になります。
シリンク帝国は、その住民の住む惑星及び巡洋艦クラス以上の宇宙艦が破壊されたが、それで全くシリンク人及びその勢力が一掃されたわけではない。その被支配種族600の住む惑星1050にそれぞれシリンク帝国の駐屯部隊がいるからである。
銀河帝国はこの点では効率の良い働きを見せた。
この場合、シリンク帝国で残った宇宙戦闘部隊は小型艦以下しかいないわけであるので、一線級の艦は必要ないということで比較的低開発種族の艦隊が向かい、これらの残った艦及び部隊を一掃していった。動員された種族は300以上で、投入された艦艇は5万機以上という。
これらの種族にとっての、こうした介入のメリットは解放した種族との交易に関して優先権を得ることであり、加えて要した費用については正当な申請をすればその復興に銀河連合の補助を得られることである。こうして、シリンク帝国の残骸も全く消え失せたのは、その運命の日から2年の後であった。
地球も手をこまぬいてはおらず、比較的銀河中央から遠く辺境にあたる惑星3つの解放に当たったが、今回は帝国中央からの増援を考える必要がないので気楽なミッションであった。従って、こうした経験に乏しい地球防衛軍にとっては貴重な体験となった。
この場合の派遣部隊には、前回のミッションのメンバーもある程度加えられたが、ほとんどが経験を積ませるということで新たなメンバーを選定している。
地球では、現在惑星の開発ブームに沸いている。現状では、日本が発見したもののみであるが、新やまとを含め地球型の惑星8つが開発対象になっており、これらは平均的には地球に近い陸地面積と資源が存在する。ということは、地球人類80億に対して、いきなり資産が8倍になったのと同じことになる。
地球においては、すでに資源の枯渇、とりわけ淡水についてが著しく、土地の限界もあり地球の資源に対して完全に人口が過剰であることが顕在化していた。惑星開発は、各国に惑星単位または大陸や島単位で分配されたことあり、各国の自主性に任せている。
しかし、よく知られているように世界に腐敗した政府や官僚が多く、このような開発が本当に人々のためになるのか、むしろ持つものと持たざる者との格差がより広がるのではないか、という点が懸念されるようになってきた。
実際に細かく調査するとこうした傾向はすでに見られ始めていた。すなわち、地球防衛軍の装備の調達のため、各国政府は惑星の土地を債権化した。これを買い占めて惑星の大部分を私物化しようとする動きがあった。さらに、移住に関しては当然入手した各国に任せていたが、腐敗した政府も多くそうした移住者の不法な選定を通じて資源や土地を不当に私物化している。
体制を変えつつある『国連』もそのことを把握しつつある。そして、実はこれらのことを暴いたのは、かの順平の長男“やまと”7歳である。彼は知能が高いのは明らかであったが、麗奈に比べ地味であまり自己主張もなかった。
しかし、各種報道は細かくフォローしてデータベース化しており、その流れで様々な経済的なデータを蓄積し始めていた。これを手助けしているのが6歳の"すみれ"で、彼女はそのコンピュータの天才をもって、あらゆるデータを必要なネットワークに侵入して入手できる腕を持っていた。
”やまと”は、この惑星開発の不正行為のことを父順平に相談した。その具体的かつ詳細な調査結果を聞き、順平は怒りかつ反省した。自分は、発明・開発を実用化することにかまけて、結果的に世の中の不公平に対して無関心で来た。これはほっておくと、貧富の格差はもっと広がり、一般の人は奴隷と平民、そして金持ち及び権力を握るものが貴族になる世界になりかねない。
彼には実は理解しにくいことがある。それは、すでに十分に金持ちであるものが更に金を求めるのはなぜかということである。過去、中国共産政権があったころ、役人の甚だしいものは日本円で1兆円超もの不正蓄財を作ったものもいる。
普通の人が家族を養っていくに多分一生で10億円もあれば十分だろう。しかし、金の上に金を求めるもの、権力の上に権力を求めるものは実際にいる以上、その存在を無視はできないし、順平の考えではその限度を超えたものは排除しなくてはならない。それが合法というのなら、法が悪いのだ。
順平は、現在日本の総理大臣になっている元財務大臣の蓑田亮介に面会して、その問題を率直に相談した。最初は戸惑っていた蓑田は大いに順平に賛成した。
「順平君、それはいいことに気が付いた。私も惑星開発に伴う貧富の差の拡大は大変懸念をしていたところだ。しかし、一つには、拙速に各国に惑星を割り振ったのは日本なので言いにくい面があったんだ。しかし、この傾向の拡大を防ぎ、それと行き過ぎた不公平の是正は行う必要がある。
これについては、現在国連が世界政府を作るということで大車輪で作業しているが、その仕組みの中に入れてしまうのが一番だと思う。その前に、いま起きている不正、また不法でなくても不公正、今後不公正になることを告発するべきだ。そのことで、世のなかに大きな議論が巻き起こるから、それに乗じて地球政府の法律や規則として作ってしまえばいい」
蓑田は一旦話を切って、順平を見て微妙な顔で言う。
「その資料として、やまと君のまとめた資料は十分それに値するが、中には出どころを明らかにできないものもあるだろう?」
蓑田の懸念に順平は認めた。
「ええ、まあハッキングに近い入手法もありますからね」
「合法的あるいは、合法と言い張れるソースのものは、国連の調査として正式に発表し、あとはわかるだろう?いまは殆どの人がインターネットに繋がっているからね。アングラ情報も大いに広まるし、それが真実であれば最終的には問題ない。それによって喚起される『世論」によって調べて証拠を見つければいいんだ。だけど、わしが、言ったというのは内緒だよ」
にやりと笑って蓑田は、不器用にウインクする。
「ええ、それはもちろん。じゃあ、やまとを連れてジョン・リザート代表に会ってきます」
順平がいうのに、蓑田が付け加える。
「その告発によって、被害を受けるものが多くおり、こいつらは質が悪いものが多いので、順平ファミリーが絡んでいることは伏せておかなくてはならんぞ。また、その法律・規則については儂というより日本政府も考えるよ」
しかし順平はきっぱり言う。
「この件に関しては必要とあらば、僕は表に出ます。僕か家族になにか仕掛けたら容赦はしません。どんな大物か知りませんが、シリンク帝国ほどのことはないでしょう?」
「う、うむ。まあ君だったら。仕掛ける方が馬鹿だな」
聞いた蓑田が苦笑いする。
順平は”やまと”と”すみれ”を連れてニューヨークの国連本部に出かけて行った。無論、やまと社の専用機で3人の人と3体のロボットの護衛付きである。ジョン・リザート代表は大柄な男性一人と待っていた。
「やあ、よく来たね。順平君久しぶりだ。こちらは、”やまと”君にすみれちゃんだね」と各々と握手して、「こちらは、地球裁判所の準備をしている。ラルフ・フィルナンドだ」と紹介する。
フェルナンドは、さらに順平たちは握手をする。その後席に着いて順平が口を開く。
「送ったデータは見ていただけましたよね?」
「うむ、見せてもらった」
応じたタリザートは目でフェルナンドを促す。
「まことに見事な調査結果です。A分類されている個人と組織はあれで十分彼らが悪意を持って、かつ自分の利益を求めて惑星開発に係っていることは立証できます。しかし、問題はそれに相当する法律が大部分の場合無く、当然その罰が決まってないことで、彼らはそれを突いてきているわけです。
こうしたことは、すでに懸念されており、そうした法律も準備されつつあるのですが、一通りの法律がそろっているのは日本とアメリカのみです。また、B分類については、証拠としては十分ですが、残念ながらその入手方法を合法と説明できないですね。また、それに相当する法律が大部分の場合無い点は同じです」
フェルナンドがゆっくり丁寧に説明する。これは、2人の子どものことを考えてのことだろう。
ちなみに、”やまと”と”すみれ”も英語には不自由はない。”やまと”が口を開く。
「それは予想していました。しかし、これらの行為が一般の人からみてズルをしているというのは、明らかだと思います。そして、それをやがて作られる地球政府が、その成立時には是正すると宣言することは出来るでしょう?
法律ができる場合、その法律制定前の行為については罰しないというのが司法の原則ですが、こうしてすでに告発して、その罰則、これは少なくとも後年成立する法の不法行為による成果はすべて没収するとすれば、かれらも馬鹿らしくて続けられないでしょう。
また、世論と言うものがあって、道徳的に完全にアウトな行為を働いたということが、その個人や組織について明らかにされるわけですから、その影響は小さくはないですよ」
ファルナンドは、”やまと”の言うことを聞いて目を白黒している。彼にしてみれは、”やまと”と”すみれ"は年齢なりの幼い子供だと思っており、順平が何で連れてきたか不思議に思っていたところだ。その反応を見て順平が苦笑しながら言う。
「”やまと”は7歳ですが、経済と法律については長けているのですよ。私はさっぱりですが。また、”すみれ”はコンピュータが非常に得意であまり大きな声では言えませんが、ネットに繋がっていれば、どんなシステムにも潜り込めます」
「なるほど、どうやってあれだけの、資料を集めたのか不思議に思っていたのですよ。しかし、どう考えてもどうやって集めたのかわからないものもある」
フェルナンド納得しつつもなお不思議そうに言う。
それに対してやまと”は、「ラリムは僕たちのアドバイザーですからね」としれっと言う。
「ラリム!じゃ、君たちに調べられないことはないんだ!」
驚いてフェルナンドが叫ぶ。ラリムのことは”全知”の存在として広く知られている。
「まあ、その辺は置いといて。どうですか、やまとの提案は?」
順平が話を戻す。それに対して、ジョン・リザート代表が口を開く。
「”やまと”君の案でいいと思う。まず、彼らの行為を国連つまり地球政府準備機構として、証拠を添えて告発する。証拠の入手法を明らかにしにくいものもラリムの名前を使って出そう。従って、A、B分類両方ともに告発する。しかし、現行法では裁けないものがあるね。
これらについては、今準備している地球法において、具体的にこのように違反しているということを明らかにして、法が成立時に彼らを裁き、その不法行為の成果は没収することを明らかにする。なにより、マスコミに、かれらが道徳的に破たんしていることを明らかにする。
そして、不道徳な個人や組織として世論で追い込む。特に公職にあるものは、マスコミのキャンペーンで追い込んで辞職させるよ。そのあたりの必要な法案の準備できるね。フェルナンド?」
「うーむ、はいと言いたいが。日本政府からも惑星開発関係の法体系の英語版がきているので法文については大丈夫です。しかし、こうした法にしますよと発表したら、もう訂正は効きにくいですよ。この点はいささか問題だと思いますが?」
フェルナンドが悩んだ様子で返す。
「法の原案はどのくらいかかるかな?その原案で、今の常任委員会の了承をとろう。決まらないものは決まらないで突っ切ろう」
腹を決めた様子のリザート代表がきっぱり言うが、そこに”やまと”がメモリーを差し出しながら言う。
「あの実は、僕が日本とアメリカの方を下敷きに作ったものがあります。参考にしてくれるとありがたいのですが」
「ええ!じゃ見てみる」
フェルナンドは応じて、持っていたパソコンにメモリーを差し込んでスクロールして読み始める。
しばしの後にフェルナンドは顔を上げて”やまと”向かって親指を立てる。
「全部ではないが読んだ限りでは完璧だ!よく法律用語まで駆使して作れたね?」
そう言うフェルナンドに”やまと”が答える。
「ええ、先進国全ての法律のデータベースを作りましたから」
「もう、君なら司法試験に合格するんじゃないかな?」
フェルナンドが冗談めかして言うが、しれっと”やまと”が応じる。
「そうですね。合格するでしょうね」
聞いていた部屋の者は苦笑するばかりだ。
「さて、それからこれも重要な話ですが。よろしいですか?」
仕切りなおすように順平がいうと、何を言われるか少々怖気づいているリザートがうなずく。
「むろん」
「リザート代表もご存知のように、銀河連合の加盟メンバーは、大抵その国の判断の助言に大規模な人工頭脳を使っています」
この順平の言葉に頷いてリザートが言う。
「うん、それは望ましくはあるが、現状で地球で考えられるの能力アップした、ラーナ位だが」
「どうですか。ラリムをアドバイザーにお願いしたら?かれも退屈して……、げふん、げふん」
言いつつわざとらしく順平がせき込む。
「それは、願ってもないが。よいのかな?」
戸惑ったように返すリザートに順平が応じる。
「ええ、瀬踏みはしましたが、乗り気みたいですよ。ね、ラリム?」
そう順平がどこにいるか分らないラリムに声をかけると応じる声がする。
「うむ、そう頼むのだったら。考えんでもないな」
そしてラリムの姿が現れる。
リザートには、ラリムのアドバイスが受けられることのメリットは良く解った。まずどんな情報収集組織やコンピュータシステムより優秀なその情報取集能力がある。さらにアドバイスはするが自分として意見は基本的に出さない、そして何よりその無謬と信じられる信頼性である。
さらには、嘘をつかないと知られている彼の言葉には証拠能力を持たせることができる、この点は大企業などが隠れて不正行為を行った場合などの告発に大いに有効だ。
「それは、ぜひお願いします。導くものラリムが地球政府のアドバイザーになっていただけるのであれば、願ってもないことです」
リザートは喜んで熱心に頼む。
「うむ、よろしい。引き受けよう。ただ、地球政府の運営が軌道に乗るまでじゃぞ」
もったいぶってラリムが引き受ける。
「はい、それはもう」レザートはニコニコ顔で何度も頷いている。
その2日後、常任委員会において惑星開発関連法の原案と、現状でその法の趣旨に反した行為を行っているものは、法の成立後その法を適用して罰し、その成果を取り上げることが同意された。さらに、ラリムが地球政府のアドバイザーに着くことが大歓迎の意とともに受け入れられた。
その直後、国連から一連の告発があった。これは、さまざまな組織・個人が惑星開発に係るもろもろの胡散臭い工作を行っており、現状では取り締まる法律がないため不法ではないが、現在行っているこれらの不正行為、不公平な措置、今後大きな不公平につながる問題が大々的にかつ詳細に発表された。
そして、これに係った個人や組織が将来成立する予定の法に反する行為を、不道徳性を承知のうえで意図的に犯していると容赦なく発表した。同時に彼らは間もなくできるその法によって裁くことも併せて公表された。そして、それは現在告発していることをもって法令不遡及の原則は通じないことも。
公的な地位にあるものについては、その不道徳性から直ちに辞職すべきとの勧告も併せて出された。しかし、これらの人々は、国において大きな力を持っているため居座ろうとする者もいた。だが、力を持った新生国連がバックについた激しく反発する世論に屈して結局辞職している。
長い間お付き合いありがとうございました。
読み返してみると、特に会話について誰が話しているかわからないものが多く、この辺りを最終話のあと1週間くらいで訂正します。
2025年、12/15文章修正。




