ファーストコンタクトその3
1昨日にSF部門で日間1位になり、その部分をプリントしました。最初で最後かもしれませんからね。
最初に投稿して10日くらいはずっと2点で悲観していましたが、頑張って続けて書いてはいました。
全然、ランキングも見ずにそうしていて、8月末に感想がいくつもあるのに気が付き、さらにランキングに乗るくらいになっているので気が付きました。それから、それを励みに書き続け、そのうちちょっと題名がわかりにくい、あらすじがピンとこないと思って改定した結果、急に読者が増え今があります。
それにつけても、投稿した最初に日にブックマークを付けてくれた方、あの2点が私の励みでした。
ありがとうございました。
ちなみに、投稿数などが小説譲情報で見ることができるのに気が付いたのは1週間前です。
順平は、人工知能ラーマに夢中になった。かれは、言葉ではかったるいということで、ラーマがインストールした様々な情報を画面ですごい速度で読み込んでいった。閉じこもった状態を周囲は心配したが、10日後に憔悴して出てきて言う。
「知識が倍くらいに広がったよ。アーマル人の文明はすごいものだ。地球が進んでいるのは戦争手段のみだね。それにつけても、あれほどのすばらしい文明を滅ぼした野蛮人どもは許し難い!」
その間、アーマル人一行はさらに地球、特に日本のことを学ぶのであった。またかれらが格別の才能を現したのは、開発発想セミナーにおける触媒としての役割であった。考えてみれば当然かもしれない。何しろ対人関係に特別の才能というか、長年の研究成果、かつ実践によって磨かれた極めた優れたものがあるわけだから。
彼らの面倒を、順平に替わってみていた牧村が立ち会って調べた限りでは、すでに数回のセミナーを経た段階で、カタリシスト1級のレベルを超えている。増して、彼らは若いがしっかりアーマル人としての教育はなされている。
なので、セミナーに参加した周りの人々からすれば、画期的な発想と言う意味で極めて効果が出やすいものになる。その日は、プログラミングに関して、セミナーを行ったところ、明らかな大きな成果が出て騒ぎになった。
「これは、ぜひアーマル人を大学に採用しなくてはいけないですね」
牧村は、学長の山村に進言し山村も同意する。
「うん、彼らはたった100人というのだがこれは全く惜しいね。彼等は、我々の学問と技術の進歩に大きな貢献をしてくれるよ。しかし、そうは言っても彼らは自らの種族を復活するという役割というか、使命があるから、便利屋に使うわけにもいかないからね」
「ただ、100人でどこかの大陸の開発をするといっても、知的な意味での刺激もなく、発展につながるとは思えません。それよりは、我々に交じって暮らしてもらって、そのなかで彼ら自身を高めてもらいましょう。
そして、一定の人口になったとき、彼らなりのテリトリーに暮らしてもらうという方法が無難なんじゃないでしょうか?我々にもメリットが大きいし、彼らもその高いポテンシャルを十分で生かせてウィンウィンの関係になると思いますよ」
応じて牧村が言い、山村がとりあえずの結論を出す。
「私もそう思っている。いずれにせよ、順平君が出てきたら話をして、彼の同意のもとでかれら及び後見役のラーマにもその線ではかってみよう」
その議論を経て、山村、牧村および順平に西脇知事が加わりアクラたち4人を呼んで、まず山村が話し始める。
「君たちがここにきて、12日になるけど、居心地はどうですか」
「はい、皆さんが気兼ねなく接触してくれるので楽しく過ごせています」
そうアクラが応じ、山村が言う。
「実は、君たちに何回かセミナーに出てもらったけど大変いい成果が出て我々も驚いています。勿論君たちも気が付いているとおもうけどね」
「はい、ああいう、セミナーですか。皆で啓発しあって発想を高めていくというのは、私どもの世界にはありませんでした。そういう意味では、すごく私たちも高まったことが実感できて、今後続けていけば、間違いなく大きな成果が出ると確信できています。みな興奮していますよ」
再度アクラが応じ、山村が論評する。
「この間の結果から、君たちも有意義と感じたようだけど、私たちもあなた方の能力の高さに非常に驚いています。その能力と言うのは、『まず自分に議論することの基礎及び周辺の知識をしっかり持って、議論のなかで皆の周知を吸い上げて結果を導きだす』ということです。これに関して、あなた方は非常に高いポテンシャルを持っていることがわかりました」
「ええ、そうなんですか?私たちも役には立っているという自覚はありましたが。そんなに評価されるとは思っていませんでした」
今度はリナンが驚いて応じる、山村が尚も評価の言葉を言う。
「そうです。これはあなた方4人すべてに言えることなので、今迎えに行っている残りの96人に関しても同様だろうと思っています」
「ええ、私たちはまあ、その能力から選ばれたわけですから」
アクラは少々困惑して、当然だと返すが山村は少々違うこと言い始める。
「君たちは、今後自分たちの民族を存続させ、繫栄させることを願っているわけですよね。それも、自分たちの国土を持ったうえで?」
「ええ、そうです。長い道のりですが」
戸惑いながら、アクラが答えるのに山村は本題に入る。
「しかし、100人の国民というのは、一つの独立した国を持つにはいかにも少ない、と私たちは考えています。そこで、提案はこうです。取りあえず聞いて、あとで皆さんの仲間が集まってから結論を出してください。
ひとつは、あなたたちはすでに私たちの中にあっても大変価値がある存在であることを証明しました。したがって、私たちにまじりあって暮らしても、十分のゆとりある裕福な生活ができるでしょう。だから、しばらくの間、少なくとも人口がある程度そうですね、最低で1千人でしょうか、それまでは私たちに交じって暮らす。
そう希望するのであれば、すぐにでもあなたたちに国土を用意することはできます。しかし、当然、その場合にはその国土が国として成り立っていくには、外部からの援助が必要です。援助に頼って生きる生活、またそれで一つの民族、また国が新たに成り立つでしょうか?
そうはいっても、それしか手段がなければ、将来の世代に期待を託して援助に身をゆだねることも必要です。われわれは、その援助を嫌がっているわけではありません。100人足らずのあなたたちに対する支援程度はどうにでもなりますから。
しかし、あなたたちの能力なら、その援助なしに自分で自分の国を建てるための、資源または財貨を稼ぎ出すことが可能だと思いますよ。自分の手で、自分の必要分を、さらに新たな国家を生み出せる富を稼ぐというのは、将来あなたたちの民族そして国の在り方を決める大事なことだと思います。そうするためには、全員でなくてもある程度のメンバーが私たちに交じって暮らす必要があります」
淡々と話す山村の言葉に暫く沈黙が下りた。順平がここで口を挟む。
「僕は、あなたたちが私たちと一緒に暮らしてくれることを望みます。それに関してはきれいごとは言いませんが、それは貴方たちのためのみでなくむしろ私たちのためです。貴方達と交流することは、私たちにとっては得るものが大変大きい。
ラーマとの対話と得られた情報でそれを痛感しました。あなた達は、それだけの値打ちがあるのですから、堂々とそれなりの対価を要求してください」
それを聞いて、ゆっくりとアクラが顔を上げて言う。
「私どもも、アーマル人として当然誇りを持って今後を生きたいと思っています。しかし、どういっても、私たちはほぼすべてを失った民族です。月の基地にあったわずかな機器、ラーマ等の人工頭脳、アリス達ロボット、それだけが私たちに残された財産だと思っていました。
しかし、いま言われたことで、私たちはアーマル人としての亡くなった人々から、大変大きな財産を受け継いでいることに気が付きました。山村先生、順平さんありがとうございます。たぶん他の3人も同じ気持ちだと思いますし、しばらく後に合流してくる他のメンバーも間違いなく納得してくれると思います」
アクラはそう言い、他の仲間を見て、彼等が手のひらを開いて肘から先を上げて賛成の仕草をすることを確認して、結論を言う。
「言われるとおり、適当な時まで皆さんに交じって暮らします。それに当たっては私たちの文化は守って、貴方達に同化しないように心したいと思っています」
その言葉に、立ち会っている地球人は大きく頷き、そこで西脇知事が述べる。
「よかった。いい方向にまとまりました。そこで、とりあえず、アクラさんたち4人は当面は、基本的に真珠大学の迎賓館に滞在してもらいます。しかし、最終的には残りのメンバーと一緒に住める集合住宅を、大学の隣に建設しますからそこに住んでください。
また、前から言っていますが、もうそろそろ、地球に行ってもらわなくてはなりません。なにしろ、異星の人とのファースト・コンタクトを新やまとが独占した形になっているのは、望ましくはないですからね。これは、アーマル星から乗ってきた“おおぞら”で行くのが本来でしょうね。
そのため、調査がひと段落するまでと言うことで、森下艦長には待ってもらっています。具体的にどうするか、またご意見は聞きますので、ちょっとアクラさんたちは席を外してきただけますか」
「わかりました」
その言葉に、アクラ以下は部屋を出ていく。
「ちょっと彼らに聞いてもらうのは気の毒なので出てもらいました。まず、地球に行く目的はどうなるでしょうかね?それによって、随行して行く人数と期間が決まってきますが」
西脇知事は相談するように言いさらに続ける。
「まず、地球側は一旦来た彼らをなかなか放そうとしないでしょう。その理由としては、皆彼らが有能で非常に役に立つというのは今の地球側にはわからないので、役に立つ立たないではなく、言ってみれば見世物としての立場になりそうですね。
なにしろ、地球に降り立つ最初の異星人ですから、すべての国が自分の国に来るようにと固執しますよ。ここで、無能の国連が出しゃばってくるでしょうし、またいろんな国がわがままを言うでしょうね。どうも、あまりいいことが思いつかないのですよね」
「うーん、西脇知事。目的もそうだけど彼らの立場に立って、必要性を考えてみればどうですか」
それに対して牧村が考えながら言い続ける。
「彼等は、総人口はたったの100人だから、地球を挙げての支援はいらないのだよね。国土を与えるにせよ、防御するにせよ、新やまとで十分でしょう。
一方で地球に行った場合にはデメリットはたくさんあるな。
1) まず、見世物にされる。つまりプライバシーを保てない。
2) セキュリティ面で怪しい。
3) 病気の感染の恐れがある
4) 各国が集まるので意思決定が遅い。または何も決まらない
5) 1)に共通するけどマスコミにさらされる、と言うのも大きいな。
これはむしろ行かない方が良いのではないでしょうか?」
彼も最近は無神経なマスコミと付き合ううちに、相当な毒舌家となって妻の早苗を嘆かせている。
「うん、やめましょう。アーマルの人々にとっていいことはなさそうなので。西脇知事それでなにか大きな問題はありますか?」
それに対して順平があっさり言う、西脇知事は、しぶしぶ自分が矢面に立つことを告げる。
「う、ううーん、私が政府から責められるという問題はありますが、大きい問題かどうかは微妙ですね。確かに、今新やまとには大陸も島も余っていますから、かれらが領土を求めてもどうにでもなりますからね。一方で、地球に彼ら全員100人が行っても飲み込まれてしまいますね。理由が立てばその方がいいとは思います。
しかし、アーマル星を滅ぼした相手に対する、地球および植民惑星の防御の問題はありますから、これは森下艦長以下にお願いしましょう。たっぷり映像やデータをつけて。しかし、森下さんだけに任せるのはちょっとまずいか。行きたくはないけど、私も森下艦長と一緒に怒られに行きましょう。明日までに彼らが行けない理由を考えてくださいよ」
森下艦長は、異星の客を同行しないで帰国することには頭を抱えたが、西脇知事が男らしく逃げずに一緒に行くというのに、感心すると同時に助かった思いであった。ちなみに、おおぞらの副長ともう一人は、現地の様子を知っているからということで、アーマル星の月に迎えに行った旅客船に同乗した。
さらに、ロボットが1台同行している。これらの、ロボットは、基本的にはラーマの指示で動くが、人工頭脳は装置されていて、通常の人程度の判断力はあるし、そのロボットは月に着いた時の連絡に必要である。
しかし、森下館長は、地球に着いて日本に帰国してからは、憂鬱な日々を過ごすことになった。
これは、西脇知事の存在があってですら行く先々で叱責される毎日だったのだ。そこで、順平から囁がれた言葉を思い浮かべるのであった。
「森下さん、新やまとはすぐに宇宙軍を作ります。そしてその司令官を募集中なのですよ」
憂鬱そうな顔をしている亭主を気遣かわしげに見る妻の里奈が、尋ねる。
「あなた、そんなに責められているの?」
「うん、自分でした決断自体は全く後悔はしていない。おれは最善の道を選んだと思っている。でも、まあ文句をいう上の立場もわかるからな」
そう森下は答え、逆に妻に聞く。
「ところで、里奈は新やまとのことはテレビとかで見ているか?」
「ええ、きれいなところね。それに活気がすごいわ。テレビに映ると恵一も幸も夢中よ。なにか新やまとの仕事で話があるの?」
顔色をパッと明るくして里奈が聞く。
「う、うん、あすこも防衛軍が必要になるからね。宇宙軍も設立するらしい」
亭主の言葉に妻は肩に手をかけて熱心に言う。元々里奈は自衛官だった女性で積極性は人一倍である。
「まあ、あなた、行きましょうよ。誘いがあるんでしょう?」
「かの順平氏からね」
「決まりだわ。恵一も幸の喜ぶと思うわ」
家族からの強い押しを受けて、森下2佐は翌日防衛軍に辞表を出した。だが、思いの他の大騒ぎになった。なにしろ、対中国戦の英雄であり、かつファースト・コンタクトをなし遂げた本人である。自衛軍もそう簡単に辞めさせるわけにはいかない。最後は、宇宙軍の制服組のトップが出てきて引き止める。
「森下君、君にかのアーマル人を連れて帰らなかった点で責めた形になったのは申し訳ない。しかし、あれは自衛軍というより政府の意向であったのだが、いずれにせよ申し訳ない。だが自衛軍として看板である君を辞めさせるわけにはいかないんだ」
「幕僚長、私ごときに申し訳ありません。しかし、私はもう決めました。それに、私が必要とされているのは新やまとにおける防衛軍だと思っています」
しかし森下はもう決めているのだ。
「そうか、新やまとで、誰が声をかけたのかな」
「吉川順平氏です」
「うーん、彼がねえ。そうなれば仕方がないと言うしかないな。というより君の働きどころはそっちかもしれないな。わかった。新やまとに行くことは認めよう。しかし形は少し考えたい。いずれにせよ、日本の人々のため、また新やまとの人々のために頑張ってくれ」
衣浦幕僚長は複雑な表情で言う。
「ありがとうございます!」
森下はパッと直立して敬礼をした。
今のところ毎日更新は可能です。
2025年、12/13文章修正。




