惑星新やまと開発準備2
惑星開発はそう簡単ではありません。準備も念入りにしないといけません。
やまと社では山科慎吾総監督の元、「総務」「調査」「計画」「交通」「都市計画」「資源開発」「商工業」「環境」「防衛」それぞれの監督が集まって会議が開かれている。
「それでは、第3回準備会議を開きます。まず計画担当監督の日野さん、開発の総枠の話をお願いします」山科が始める。
「はい、2回目までの会議で確認したように、まず現地において、最優先は設計部隊、インフラ建設部隊が住む住居です。これらの建設は、基本的には資材をすべて地球から持ち込んで建設しますが、その後の都市、農地、工場、鉱山、油田等の開発は現地で製造した資材によるものと考えています。
優先すべき生産工場は、セメントおよびバッチャープラント、鉄筋・鉄骨、プラスチック資材、ガラス、コンクリート2次製品、タイル等の窯業線品、肥料等で使用量が莫大でかさばるものとしたいと思っています。輸送機器、建築に用いる機器および様々な小物等は当面地球から持ち込みます。
現状で、先ほど申しあげた、優先すべき工場のための資源のありかは突き止められており、いずれも首都とされている、真珠市の位置から400km以内にあります。そこで、セメント、製鉄、鋼材製造、石油化学、ガラス、コンクリート2次製品、窯業製品、肥料については専門の会社に発注します。そして、直ちに日本で工場のパッケージ化した部品を、現地に運んで組み立てさせようという計画です。
これらの発注は、見積もりをとってネゴをしていると時間を要しますので、相手の言い分も聞いて、暫定金額で発注して、最終的に査定して調整するものとします。これはFR機の初期の建設にも使われた方式です。間に合うものは、12月に予定されている出発の際に持っていきたいと思いますが、用意出来次第順次発送します。
さらに、当面の宿舎の建設、用地造成、建物の組み立てを含め、さらに当面20万世帯が入れる、アパート群、オフィスおよび商店ビル等200棟、加えて一戸建て1万棟を擁する団地を含めて、ゼネコンに発注します。
これは全体としての真珠市の都市計画と整合させますが、この計画は、当面は宿舎およびその必要を満たす商店等の地区および建物の設計のみしかできていません。ゼネコンへの発注も工場等と同じ契約方法を取ります。
ちなみに、いま申し上げた工場建設及び建設関係の暫定契約金額の合計は、都市建設のみで1兆円、さらに工場関係は製鉄所と石油化学工場が大きく大体6千億円位になっています。これら、住宅やビル・工場は民間企業、および住民に売却するので大半は回収可能と考えています」
「はい、日野さんありがとうございます。次に旅客船、輸送船の確保についても重要な問題だと思いますが、交通担当の吉屋さんお願いします」
「交通担当の吉屋です。現状で完成している宇宙機は、先日の報告にもあったように3千人乗りの旅客型が10機、3万トン積みの貨物機が20機です。これらについては、現在試運転中です。
今のところ、旅客機がさらに20機、3万トン積みの貨物機が20機製造に入っており、年明けには完成の見込みです。さらに、大型のプラントを運ぶ関係から、全長150m、幅50m、高さ20mの3万トン積みの貨物機ではサイズが不足すると考えられています。
ですから、10万トン積みの機が5隻作られています。こうした製造は、牧原工業団地のみでなく、全国の造船所で行っています。なお、造船所での製造は最近ではいわゆる海を走る船は殆どなく、重力エンジンを積んだ航空機、それも大型の貨物機がほとんどです。
そこに、宇宙機が加わったわけです、エアロック等を除けば、こうした航空機との大きな構造上の差はありませんので、宇宙機の製造は比較的簡単に軌道に乗りました。
問題だったのは乗り組み員ですが、当面200名程度必要なパイロットは自衛軍から出してもらいました。そのため、宇宙機の制御機構は自衛軍機に近いものにしています。
乗り組み員については、船員が海を走る船から飛行機に代わったことで、移動時間が大幅に短縮されたため、余剰人員が大幅に出ました。だから、これらの船員から募集しかなり確保しました。しかし、基本的に日本人船員はもともと比較的少なく、それでも十分ではありません。ですので、様に時間短縮のため余剰になったトラック等のドライバーも集めています。
牧原宇宙船員養成学校で、人が育つまではこれでしのいでいきたいと思っています。なお、同校では来春から募集を始めます」
このような、さまざまなテーマについて議論された。
狭山健二は自分が乗る宇宙船を見上げた。
それは、広大な牧原宇宙基地の片隅に置かれると小さく見えるが、長さは170m、最大幅50m、船体高さ20mの全体としては長細い小判型であるが、量産性を考えてあまり曲線部はなく角ばっている。船の下部は地上3mほどであって、側面には移動式のエレベーターが設置されている。
この中が5層に分かれ、客室部は1万5千㎡あるので3千人の乗客・乗員一人当たり5㎡でその中に通路、トイレ、シャワー等もあり実際の専用面積は2㎡くらいか。大体、飛行機のビジネスクラスと思えばいいのだろう。それに、客室とは別に交代で食事をとる食堂スペースもあり、ここでは軽い運動ができる。重力エンジン駆動ということで船内では、重力は1Gに保たれている。
無論、プライバシーは殆どないので、男性と女性のフロアーは分れている。これで、大体11日間の旅をするのだ。狭山は自分がここに来るまでのことを思い浮かべた。
彼は、御代田エンジニアリングのエンジニアとして、かって巨大な石油化学プラントを建設していたが、日本に起きた技術革命で、石油化学という分野が大きな用途を占めていた燃料としての役割が終わったことを知った。
しかし、幸いにFR機の建設工事を実施することになり、この5年間で彼が手掛けたものだけで100万㎾機30機におよぶ。これは、海外を含め中には5機同時建設というものもあったためこの数になった。
しかし、FR機建設の仕事は世界的に一巡し、着工件数は大きく減ってきている。それに彼自身、ややこの仕事に飽きがきていることを自覚していた。すなわち、送電への調節、工期の厳守など工事上生じる問題は個々の現場で異なるが、FR機そのものはいわば標準化されたもので、全く同じ仕様である。言ってみれは同じような仕事を延々としていることになる。
そこに、会社から新やまとで石油化学プラントを建設するというので、そのPMにどうかという話があった。発注者は略称やまと社であり、現地で産出する原油によって、年産100万トンのエチレン、プロピレン、C4/C5系、芳香族すべての誘導品である樹脂類、ゴム類、アルコール類を製造するプラント建設するものである。
しかし、100万トンのプラントができるまで待っていられないということで、規模が小さくてもとりあえず稼働できるものを作るという要求があった。そこで、ちょうど年産8万トンのポリエチレン塩ビ等樹脂を製造できるプラントの工場製作が終わったところで、施主の倒産でキャンセルされたものがあり、これを持って行って緊急に建設することになった。
それで、最初の8万トンのプラントを含めて、例のない地で、例のない工事ということで、一応1千億円の枠を取るが、必要に応じて一定の査定に基づいて増額するという契約になったものである。御代田エンジニアリング受注の決め手になったのは、すぐ運べるプラントをたまたま持っていたことであった。
会社の彼への要求は、そのため、第1次の建設隊3千人に加わって、準備作業および先述の小型設備の建設を行うというものである。その際に彼一人では何もできないので、FR機の建設でともに仕事をし、気心の知れた柴田と他に若手8人を連れてくことになっている。
さらに、会社からはこういうことが言われている。
「たぶん、この仕事は規模からして5年はかかる。できたら、家族も連れて行ってほしい。やまと社の希望は、現地に行った人が気に入れば、永住してほしいということだがね。建設現場は首都として決まった真珠市から400km程度の位置で、現地には少なくとも5万人程度の町ができる。
若手は、妻帯者で奥さんが現地に行くことを了解したもののみになる。君も奥さんと話してみてくれんかね。現地では宿舎は当然支給するし、手当等で収入は5割ほど増えるはずだよ」
狭山は正直に行きたいと思った。現在50歳の自分にとってこれほどの規模の仕事の指揮をとること、増してもともと専門であった石油化学プラントを建設することはあまりチャンスはない。だから正直是非やりたい。
今の家族構成は、専業主婦の妻の順子、長女のなつめは21歳の大学生、長男の章一は16歳の高校生である。なつめはY大学の3年生だから、いずれにせよ卒業までは日本にいることになる。息子は高校2年であるのでこれも卒業までは、そのままになるであろう。大学は微妙だが、新やまとの真珠市には大学は1年以内程度に作られるとの話は聞いている。
いすれにせよ、妻に話してみよう。帰宅したところ、息子はすでに帰っており、食事中である。狭山は自分も食卓について、順子からビールを注いでもらった後、一口つけて切り出した。
「実は、会社から打診があって、新やまとで石油化学プラント建設のPMで行ってくれとの話があった」
その言葉に順子が彼を見つめて尋ねる。
「そう、健二さん。いつまで?」
「大体、5年くらいの見込みだ。それと、今回の話はそう簡単に帰れないこともあって、極力家族も一緒に行ってほしいとの話だ」
「ええ!よかった。私も絶対行くわ!新やまと素敵ね。いろいろ映像を見たけど本当にきれいなところね
「う、うん、俺が行くのは、先発隊だからろくに宿舎の用意もできていないけど、一緒に行くほかの9名も家族が行くときには宿舎は出来ている予定だ。大体、3か月後になるらしい。しかし、なつめは卒業まではこっちにいる必要があるだろうし、章一も少なくとも高校卒業まではこっちだろう」
そこに章一が割り込んで言うが、行くことに前向きだ。
「いや、父さん、僕もできるだけ早く行きたいな。僕の情報だと、あっちに高校は5月ごろには開校だそうだ。大学も遅くとも来年春には開校だそうだから。新やまとに行けるなんて最高だ!」
「しかし、まだ今から開発しようという惑星だよ。まあ、安全ではあるらしいがね。まだろくに宿舎もできていない状態で何もかも今からのところだぞ」
そう狭山が言うが、章一は怯まない。
「だからいいんじゃないか! 今から開かれる惑星、大陸、街なんて、最高にエキサイティングだ。同級生もきっとうらやましがるよ」
「姉さんもすぐ行きたがると思うよ。でも、まあ卒業まではしょうがないかな」
さらに、章一は言うが、ちょうど「ただいま!」と言ってなつめが帰ってくる。
「ああ、いいにおい、おなかがすいたわ」
そう言って、キッチンテーブルの前に座るが、様子の違いに気づいて皆の顔を見渡して尋ねる。
「どうしたの。なにかあったの」
「う、うん。実はね。私が今度新やまとの石油化学プラントのPMで現地に行くことになったんだ。それをいま言ったところだよ」
そう言う狭山に、驚いて聞く。
「ええ!私も行きたいな。いつから?」
「この12月出発の予定だ。で、会社としてはできるだけ家族も一緒にということを言っている。でもなつめは大学があるからね」
それに対して、考え込む様子で喋り始める。
「うーん、そうねえ。ちょっと無理かな。でもよく知っている先輩がいるのだけど、その先輩は江南大学と協力していて、こんど新やまとに行くと言っているのよ。たぶん、お父さんの会社がそう言うというのは、できるだけ初期の建設に係る人たちは、新やまとの住民になってもらいたいということのはずよ。
そういう意味では、私たちはお父さんがごく初期メンバーに選ばれるということだから、すごいコネよね。行くことは無理がないわけだから。あとは、現地に行っての活動の結果として卒業を認めてもらえるかだけね。ちょっと、先輩に話してみる」
「僕も早く行きたいんだよ」
具体的に言う姉に対して章一が訴えると、なつめは考えながら言う。
「あなたの場合は、現地に高校めいたものがあれば問題はないと思うな。成績はいいからね。来春にできるという現地の大学にも楽々はいれるでしょう。 お父さん、家族は行くのはいつになるのかな?」
「我々の出発は12月3日で、2か月後に本2万5千人の建設部隊が出発、その後4月までに3万2千人の設計チームが出発の予定で、家族はその後年内に移動するという予定になっている」
「ふーん。先輩は3月に行くと言っていたから、私も何とかそれに合わせてもらおうかな。お母さんと、章一は4月以降に来ればいいわ」
「そう、うまく行くかな?」
章一が不安げに言うが、なつめはあっさり言う。
「もちろん、現地の大プロジェクトのPMを勤める偉大なる父上のコネが必要ですよ」
「ええ!俺が? うん、まあトライしてみるよ。お母さんは一緒に来てくれるということなので、この際4月頭には皆がそろうように動いてみるよ」
狭山は腹を決めて皆の顔を見渡して明るく言う。家族皆が行きたいと言ってで彼は嬉しかったのだ。
「まあ、よかったわ。皆がそろって暮らせるのが一番だものね。なつめもおなかがすいたでしょう。さあお食べなさい」
話の行方に戸惑った顔をしていた、順子であったが、話が落ち着いてきてニコニコしながら、なつめに食事を出す。
狭山は、思い出から我に返って周りの部下を見て、彼ら及び見知らぬ多くの男女と再度歩き始め旅客船”新やまと12号”のエレベータに乗り込む。エレベーターのケージは50人乗りとなっており、格子構造で外が見える。
案内のやまと社の制服を着た女性が、「では皆さんは3階で降りていただきます」とボタンを押す。これは普通のエレベーターであり、通常通りのショックと重力変動があり、あっという間に3階に着いて、ドアが開く。
案内の若くてやまと社の制服を着た男性が、待っており皆を案内する。前方にシンプルなテーブルと100席ほどの椅子が備わっている部屋があり、横には200㎡程度の広場と、アスレチックの道具が20組ほど備えられている。また、そこには何本かの観葉植物が置かれている。
「ここは食堂と、簡易運動室です。残念ながら全員が一斉に食事や運動は出来ません。このフロワーの収容人数は600人ですので、標準で6交代ということですね。そういうことで客室の中はブロックに分かれていますので、それぞれ生活の時間帯をずらしています。
なお、間仕切り等が安っぽいと思うかもしれませんが、これはプレハブ式でありまして、いずれこの船は、片道は人員輸送に使うと、もう片道は貨物輸送に使うということからです。どうぞ、こちらのAブロックにお入りください」
狭い通路をたどっていくと、間仕切りで仕切られた4人部屋にそれぞれ案内される。ベッドは2段式で、2連、幅80cm程度の4基のデスクが備えられている。
「残念ながら、豪華客船というわけにはいきませんが、ここで、実質11日間の旅を過ごして頂きます」
そう言って、案内者は狭山らを残して別の人々を案内していく。
同室の皆は同じ会社のメンバーであり、いままで準備で一緒に仕事をしてきて気心が知れた者ばかりである。
「出発まで、あと1時間か。私はしばらく資料を読むけど、皆はのんびりしてくれ」
狭山が言うが、机についてコンピュータの中の資料を読み始めた。
「いえ、われわれものんびりはしていられません。着いてからは大変ハードですからね。いまから中身を頭に叩き込んでおかないと」
やがて、アナウンスがある。
「あと10分後に離陸します。乗客の皆さんはベッドに入って、シートベルトを締めてください。姿勢は、スクリーンに映しているように寝た状態かまたは、椅子で起きた状態にしてください」
「ではあと10秒です、5、4、3、2、1出発!」
時間が来て、アナウンスと共に出発すると、軽く揺れが感じられ室内に2つあるスクリーンにみるみる垂直に離れていく地上の様子が写されている。
「重力推進開始!」
さらにアナウンス。地上がみるみる離れていく。速度計もどんどん上がっていって、やがて秒速11km/秒を示す。
「地球の脱出速度を超えました。この重力エンジン船では関係ありませんが」さらに速度は上がっていくがほとんど加速感、ショックはない。
地上10万kmにて、25万km/秒を超え、「間もなく超光速飛行に入ります」とのアナウンスがある。
目的地は黄道面からほぼ垂直の方向で、星間物質の濃度が小さいた必要があるために、結局5時間ほどでその宙域に達し、新やまと12号は最大速度である1.2光年/日となり再度アナウンスがあった
「ただいま、本船は最大速度である1.2光年/日に達しました。超光速飛行中は残念ながら外は何も見えません。今から10日と1時間ほどで、新やまとから1千万kmの位置に達し減速します。それでは、皆さんは決められたブロックごとの時間ローテーションでお過ごしください」
狭山達は、すでに睡眠時間になっておりすでに疲れたこともあって、睡眠薬のお世話にならずともすぐに眠りに引き込まれていった。
開発の実際など、ご興味がある方が多ければいいのですが。
私は土木が専門なので、それ以外だと無知をさらすことも多いかと思いますが、あしからず。
修正します。
2025年、12/11文章修正。




