第4話 20枚のブーメランの同時使用!?
ダンジョンの支部には、防音がしっかりした『会議室』がある。
バスケ部員は、この中の会議室を一つ使用していた。
お菓子やジュースを持ち込んで、モニターを使っている。
そこには……。
「なぁ、海斗。何がどうなるとああなるんだ?」
蓮はメガネのブリッジを上げながら海斗に聞いた。
「そりゃ、直感とノリだ!」
「栞。手綱は握れなかったのか?」
「握った上でコレよ。わかるでしょ?」
「なるほど」
蓮は諦めたように頷いた。
「なんで、霧とコンテナの廃港……ダンジョンの中に、刃多はバイクを持ち込んでるんだ?」
モニターに映っているのは、霧とコンテナの廃港だ。
おそらく刃多の私物なのか、バイクを持ち込んでいる。
画面の角度から察するに、おそらく刃多のスマホによる『配信魔法』だろう。
白い球体が空中に浮かびあがり、これが『カメラの位置』を示すのだ。
「洞窟型は持ち込めねえけど、文明型は持ち込めるからな」
「法律でそう決まっている。中も広いし、洞窟型のような接触事故がないと判断されたのだろう」
海斗の説明に剛が補足する。
洞窟型も、ダンジョン内部で渋滞したという噂を聞かないほど広いのは事実だ。
しかし、あくまでも通路である。
ダンジョンの中は物理的にバイクを持ち込めないのではなく、
「まぁ、そんなことだろうとは思ったし、刃多が自動二輪免許を持っていることも驚いたが。それよりも……」
航はティーカップをテーブルに置きながら指摘する。
「何故、刃多が着ているライダースーツがレディースなんだ?」
そう、刃多だが、ライダースーツがレディースだ。
刃多の華奢な体のラインが出やすいものになっており、非常に似合っているが……。
「母親とバイクを買いに行った時に一緒に買ってもらったらしい」
「それは美しい判断だね」
「そう……なのか?」
航の質問には剛が答えたが、航としては『アリ』らしい。翼は首をかしげたが。
「……そういえば、武器は? お楽しみと言っていたが」
「ああ。そうだな……お、モンスターだ!」
四足の機械獣が、曲がり角の奥から刃多に近づいている。
「刃多、見せてやれ! お前の戦いをな!」
海斗がマイクに向かって言うと、モニターの刃多は頷いた。
刃多が両手を掲げると、そこに『渦』が出現。
手を入れて引き抜くと、そこにはブーメランが握られている。
「……ブーメラン?」
蓮が『珍しいな』と思っていると、刃多は獣の方を一切見ずに、ブーメランを投げる。
当然だが、目の前にいる人間が投げたブーメランなど、獣にとっては目で追える。
……いや、獣と言っても機械なので、『センサーで認識できる』の方が正しいのか?
まぁそれはともかくとして……。
「あ、また取り出した」
ブーメランを投げたが、次のブーメランを取り出し、そして投げる。
合計4枚。
いや。
次々と、次々と取り出して、投げていく。
獣の方を一切見ず。
というか……。
「か、カメラ目線のまま、ブーメランを何枚投げる気だ?」
カメラの方をじっと見たまま、ブーメランを次々と投げる。
獣の方にも、ブーメランが襲い掛かり始めた。
「ギッ、ギギッ……」
縦横無尽に飛び回って、ブーメランを回避する獣。
だが、だんだん、追いつかなくなってきた。
「ぎっ、ギギギッ、ギアアアアアアッ!」
一枚、命中し、動きが鈍くなった時。
すでに展開中の、二十枚のブーメランが、一瞬で襲い掛かった。
ただ、有効打ではあるが決定打ではない。
バスケ部の面々がそう思っていると、赤く、大きなブーメランを取り出した。
刃多が魔力を流し込むと、強いエネルギーを放ち始める。
それを力強く投げて……ブーメランに襲われている獣に決定打を与えた。
そのまま、魔石を残して塵になっていく。
飛んでいたブーメランだが、刃多の方に返ってくる。
再び『渦』を作ると、全てのブーメランが入って消えていった。
「「「……」」」
買い物に同伴していなかった蓮、航、翼は絶句である。
「……強すぎるだろ!」
最初に叫んだのは蓮である。
一応、刃多が単独で潜ることは彼が提案したわけだが、判断材料に『海斗がノっている』など、確信はあれどどこか中身のない形だった。
その結果がコレなわけだが、明らかに強すぎる。
「気になるのは、あの渦はアイテムボックスかな? 高等魔法のはずだが……」
「いや、空間把握能力が異常に高い人なら、使えることも珍しくはない」
「それはそうか」
航は『渦』が気になったようだが、剛の補足で納得。
「つーか……それ以上に思うんだけどさ」
翼は呟くように言った。
「モンスターと戦ってる間、刃多ってずっとカメラ目線だけど、画面越しでも、こうして正面から見つめられることってなかったから、ちょっとゾクゾクする」
「確かに!」
海斗が大きく頷いた。
「ふむ、『他者と視線を合わせられない』という強迫性障害を持っていたはずだが、カメラなら大丈夫なのか? 刃多も厳密に説明できないと思うし、好都合ではあるか」
航は紅茶を飲みながらも満足そうだ。
「刃多君。教習と違って、引率のいない戦闘は初だよね。大丈夫?」
『むー……む?』
栞が聞くと、刃多はカメラ目線のままで首を傾げた。
「「かわいい~~~っ!」」
「るっさいな!」
海斗と翼が騒いで栞がキレた。
「まぁ、問題はないか」
「で、どうするんだ? 霧とコンテナの廃港。確か、一番大きな貨物船で、一番奥にいるボスを倒すのがゴールだったはずだけど」
「それはそうだし、このままモンスターと戦っていてもある程度稼げそうではあるが」
蓮はメガネのブリッジを押し上げる。
「ここは『港』だ。何か取引の痕跡があるかもしれない。もしかしたら、何かをギミックを解き明かすことで、大きな報酬を獲得できる可能性はある」
「そうだろうね。一本道の洞窟ではなく、こうして開けたマップになっている以上、かなり期待できる」
謎解きに挑もう。という話だ。
「うーん……なぁ、蓮。Aランクダンジョンっつったら、光聖みたいなエリートがいっぱい挑んでんだろ? なのに、なんで誰もギミックに挑まねえんだ?」
「簡単だ。海斗……多くの人は『恐怖』に支配されているからだ」
挑んで、何かを成し遂げたら、報酬がある。
それがダンジョンだ。
ならば、『文明型』という、開けたマップである以上、ギミックを解き明かせば何か報酬があるだろう。という話は、むしろ当然の感覚である。
ただ、『霧とコンテナの廃港』で魅力的な報酬が設定されたギミックがあるとすれば、そもそも理事長の御門良善あたりは真っ先に手に入れたり、独占しようとするだろう。
しかし、そのあたりの話は、全く出てこない。
世界観として報酬が設定されている可能性は否定しないが、実際、どうなのかと思う。
海斗の認識はそんな形だろう。
それに対し、蓮は『恐怖』という理由を口にする。
「Aランクの殺気の中で、彼らの思考は『生存』と『戦闘』にしか向かない。装備ロストの恐怖に怯えながら、『このメモはなんだろう?』みたいな『遊び』にリソースを割ける人間はいない」
「フム。つまり、彼らの探索は『美しくない』ということだね」
航が補足する。
「恐怖に駆られ、義務としてダンジョンに挑む……そんな醜悪な精神状態で、ダンジョンが隠したギミックに気づけるはずもない。私たちのように、『最高の遊び場』として捉えてこそ、その本質が見えてくるのさ」
「なるほど……」
「それにだ」
蓮はメガネのブリッジを押し上げつつ、海斗に言う。
「今のお前が、ただモンスターを倒すだけのダンジョン探索に、楽しさなんて感じないだろう」
「間違いねえな!」
「それに、開けたマップのAランクダンジョンと言う高難易度の中で、そんな遊び心を発揮するなら、刃多が単騎で入る方が美しい」
各々も納得しつつある。
「まっ、『探索専門学校プロジェクト』で求められるスキルは、『洞窟型』で、遭遇するモンスターを倒しながら奥に進むシンプルさだからね~」
「だろうな。光聖も洞窟型であれば、41層から50層の『Aランク適性階層』を、Cランク四人を連れて安全に進める可能性はある……が」
「あの理事長次第。というわけか。実に美しくないね」
ちょっと呆れが混ざったあたりで……。
「あのー。刃多君は次にどうするの?」
「そうだな。さっきから放置しすぎてアリの巣を眺めてるぞ」
「「「「あ……」」」」
栞と剛に指摘されて、海斗、蓮、翼、航が『しまった』と言いたそうな顔になった。
「と、とにかく、まずはマップを見て回ろう。せっかくバイクもあるんだ。移動しながら探索しよう」
方針は決まった。
……グダグダではあるが。




